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Credit:Structural and mechanical properties facilitate shock wave damping by helmet-like orbital hoods in snapping shrimp
biology

指パッチンで超音速衝撃波を放つエビは自爆防止ヘルメットを装備していた

2026.02.16 20:10:01 Monday

指パッチンみたいな一撃で、水中に「ドンッ」と衝撃波をばらまき狩りを行うエビがいます。

しかしこのエビは、自分の武器のせいで、いつも頭の目の前で小さな爆発のような現象を起こしていることになります。

アメリカのサウスカロライナ大学(USC)で行われた研究によって、このエビの頭にはオービタルフードと呼ばれる透明な“ヘルメット”があり、その素材と構造が衝撃波をうまくいなして、脳や目を守る仕組みが見えてきました。

研究では計算が行われ、ヘルメットの内部構造と素材の性質のおかげで自分が起こした衝撃波をうまくいなし、その結果として脳や目にかかる「ゆさぶり(ひずみ)」を約3割、「ためこまれるストレス(応力)」を約2割も減らしている可能性が示されました。

いまの人間用ヘルメットや防弾チョッキは、弾丸や破片から守ることは得意でも、爆発で生じる衝撃波から脳を守ることはあまり得意ではありません。

海底で暮らす小さなエビのヘルメットが、私たちの未来の防具を本当に変えてしまう日が来るのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年2月11日に『Journal of the Royal Society Interface』にて発表されました。

Structural and mechanical properties facilitate shock wave damping by helmet-like orbital hoods in snapping shrimp https://doi.org/10.1098/rsif.2025.0769

なぜ超音速衝撃波を出すエビは自分をノックダウンしないのか?

なぜ超音速衝撃波を出すエビは自分をノックダウンしないのか?
なぜ超音速衝撃波を出すエビは自分をノックダウンしないのか? / Credit:川勝康弘

花火や爆竹の「ドーン」という音を近くで聞いたとき、胸や頭までズーンと響いた経験はないでしょうか。

あれはただの音ではなく、爆発で生じる圧力の波が空気の中を伝わり、近い場所ではとても速いショックウェーブとなって体の中までゆさぶっているからです。

もちろん、遠くから眺める花火の音そのものが危険というわけではなく、問題になるのは人のすぐ近くで起きる強い爆発です。

ショックウェーブは特に、脳や目のような神経組織(からだの情報を扱うやわらかい部分)にダメージを与えやすく、短期的にはふらつきや記憶力の低下、長期的には神経の変性や認知機能の低下、最悪の場合は死亡につながることもあります。

そのため戦場や爆発事故の現場では、「爆風で脳がやられる」という問題が長年大きなテーマになってきました。

ヘルメットやボディアーマー(防具)は弾丸や破片から守るのは得意ですが、ショックウェーブから脳を守ることはあまり得意ではなく、「爆風による脳損傷をどう防ぐか」はいまも世界中の研究者が頭を抱えている難問です。

実際、衝撃波のエネルギーが脳や目に伝わるのを十分に防いでくれるヘルメットはまだ存在しません。

(※爆発物処理班が着用する完全密閉型ならば衝撃波をかなり防げますが、戦場の兵士がそれを着て戦うわけにはいきません。)

ところが自然界には、そんなショックウェーブを毎日のように顔面で浴びているのに、平然と暮らしている生き物がいます。

それがスナッピングシュリンプ(テッポウエビの仲間)です。

このエビは、バネ仕掛けの大きなハサミを一気に閉じることで高速の水のジェットを発射し、その勢いでキャビテーションバブル(圧力の差で一瞬だけできる小さな泡)を作ります。

泡がつぶれる瞬間に、光・音・熱、そして強力なショックウェーブが生まれ、これを武器としてライバルや獲物にぶつけているのです。

指パッチンエビの「パッチンの威力」

テッポウエビ(スナッピングシュリンプ)は、片方だけ異様に大きなハサミをバネ仕掛けのように構えておき、「パンッ」と閉じるだけで、水中にとんでもない一撃を送り出します。ハサミの先の小さな窪みから絞り出された水は一瞬で30メートル毎秒前後、時速にすると100キロ近いスピードに達し、その勢いで前方に空洞の泡「キャビテーションバブル」がふくらみます。この一撃で押し出された水は、細いジェットになってハサミの先から飛び出し、その先で水圧が一気に下がることでキャビテーションバブル(空洞の泡)が生まれます。

しかし本当に怖いのはその次で、この泡がつぶれる瞬間に一気に周りの水がなだれ込み、圧力上昇とともに鋭い衝撃波が生まれるとされています。ハサミから数センチ離れた場所でさえ、80キロパスカルクラスの圧力変化が測定されています。さらに変態的なのは温度です。泡が完全につぶれる、そのほんの一瞬の内部では、計算と観測から5000ケルビン、摂氏にすれば約4800度を超える温度に達していると見積もられています。これは太陽の表面温度(約5800ケルビン)とほぼ同じオーダーで、「エビが指パッチンしただけで、ピンポイントとはいえ太陽表面級の高温が生まれている」と言っても大げさではありません。水中で音として測ると、218デシベルに達することもあり、これは銃声(空気中でだいたい150〜170デシベル)も大きく大きなロケット打ち上げ(200デシベル前後)に匹敵します。この威力は、周りの生き物から見れば冗談では済みません。小魚や別の甲殻類が至近距離でこの衝撃波を浴びると、神経がショックを受けて動けなくなったり、その場で気絶したりすることがあります。

録音してみると、スナッピングシュリンプは昼夜を問わず「パチン! パチン!」と鳴き続けており、そのショックウェーブは自分の頭にも、相手とほとんど同じ強さで当たっていることが分かっています。

しかもこの“パチン”は、武器であると同時に仲間とのコミュニケーション手段にもなっていて、彼らはまさに「しゃべる拳銃」のような生活をしているのです。

では、そんな危険なショックウェーブを顔の目の前で連発しているのに、なぜスナッピングシュリンプの脳は無事なのでしょうか。

以前の研究で、研究者たちはこのエビの目と脳の上にオービタルフードと呼ばれる透明なヘルメット状の突起があることを見つけました。

さらに極小の圧力センサーを使って調べると、このヘルメットの外で測ったショックウェーブよりも、内側で測ったショックウェーブのほうが大きく弱まっていることが分かりました。

また、あえてオービタルフードを取り除いたエビにショックウェーブを浴びせると、運動の調整が乱れ、隠れ家に戻るのが遅くなるなど、脳がダメージを受けたような行動が現れました。

つまり、オービタルフードは研究者たちが初の例と位置づけた「ショックウェーブから脳を守る天然ヘルメット」と言ってよさそうです。

ただし、ここで新たな疑問が生まれます。

オービタルフードは見た目には甲らの一部が少し伸びただけの、薄い半透明の板にしか見えません。

どうしてこんな薄い板が、あの強烈なショックウェーブをそこまで弱められるのでしょうか。

そこで今回、研究者たちはスナッピングシュリンプのオービタルフードと普通の甲らを徹底的に比較し、「どんな素材の性質と構造が、ショックウェーブをいなす秘密になっているのか」を明らかにしようとしました。

もしその仕組みが分かれば、エビが使っている“衝撃波いなしヘルメット”のアイデアを、人間のヘルメットや装甲に持ち込むことはできるのでしょうか。

次ページ爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した

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