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Credit:Structural and mechanical properties facilitate shock wave damping by helmet-like orbital hoods in snapping shrimp
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指パッチンで超音速衝撃波を放つエビは自爆防止ヘルメットを装備していた (2/2)

2026.02.16 20:10:01 Monday

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爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した

爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した
爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した / Credit:Structural and mechanical properties facilitate shock wave damping by helmet-like orbital hoods in snapping shrimp

エビのヘッドギアはどんな仕組みで厄介な衝撃波を防いでいるのか?

最初に行われたのは、オービタルフードと普通の甲らを小さく切り出して、機械でグイッと伸ばす「引っぱり試験」です。

長さ数ミリの試験片を装置にはさみ、短い時間で三割ほど伸ばしてそのまま保ち、時間がたつにつれてどれくらい力が抜けていくかを測りました。

これは粘弾性(ゴムのように弾む性質と、水あめのようにゆっくり変形する性質が合わさったもの)を調べる典型的な方法です。

すると、オービタルフードは普通の甲らに比べて「硬さ」はおよそ半分しかないのに、引っぱった直後からしばらくのあいだに抜けていく力の量は約二倍という結果になりました。

研究者は、瞬間的な硬さと時間がたったときの硬さの比を指標として「どれくらいエネルギーを中で散らしてしまえるか」を計算しており、その指標はオービタルフードのほうが小さく(つまりより粘ってエネルギーを散らせる側に)なっていたのです。

つまりエビのヘルメットは、ガチガチに硬い盾ではなく、「ちょっと柔らかいけれど、そのぶん衝撃のエネルギーを中でじわ〜っと散らしてしまうクッション」のような素材だと言えます。

ある意味で、エビは「硬さを犠牲にしてでも、ねばりで守る」タイプのヘルメットを選んだことになります。

これが、ショックウェーブをいなすための第一のコツだと考えられます。

では、なぜそんな粘弾性が生まれるのでしょうか。

同じエビの甲らなのに、ヘルメット部分と普通の背中では何が違うのでしょう。

そこで研究者たちは、透過型電子顕微鏡(TEM:とても細かい内部構造を観察できる電子顕微鏡)を使って、オービタルフードと普通の甲らの断面を観察しました。

エビの甲らは、大まかに「外側の薄い膜」「中間の比較的硬い層」「内側の厚い層」という三つの層に分かれています。

このうち内側の厚い層には、キチンという繊維がラメラと呼ばれる極薄のシート状になって何十枚も重なっています。

電子顕微鏡で測ると、オービタルフード全体の厚さは平均で約13マイクロメートルほど(実際には12.7マイクロメートル)しかなく、普通の甲らは約26マイクロメートルとそのほぼ二倍の厚さがありました。

ところが、その中に含まれるラメラの枚数は、普通の甲らが平均で約35枚だったのに対し、オービタルフードでは平均で約57枚と、約1.6倍に増えていたのです。

1マイクロメートルあたりのラメラ枚数に直すと、普通の甲らがおよそ2枚なのに対し、オービタルフードはおよそ6枚という“超薄切りサンドイッチ構造”になっていました。

厚さは半分近いのに、層の枚数は約1.6倍ということは、一枚一枚がとても薄い「超薄切りサンドイッチ構造」になっているということです。

薄い層がたくさんあると、その境目が増えます。

境目はすべりやすい部分なので、衝撃が来たときに層どうしが少しずつずれながら変形することができます。

その結果、外から入ってきたエネルギーは、この「インターフェースのすべり」で散らされやすくなる可能性があります。

研究者たちは、こうした多層サンドイッチ構造が、さきほど見つかった「半分の硬さと二倍のエネルギー吸収力」を生み出している大きな理由の一つだと考えています。

素材とミクロ構造の違いがわかったところで、次に気になるのは「それが本当に脳を守る力につながっているのか」です。

そこで研究者たちは、マイクロCTでエビの頭部を丸ごと撮影し、オービタルフード・甲ら・目・脳・体の位置関係を再現し、その形をもとに断面モデルを作って計算に使いました。

マイクロCTの画像からは、オービタルフードが目のカーブに沿うようにかぶさり、そのあいだに水の部屋のような空間があることも分かりました。

この水の部屋は平均でおよそ70マイクロメートル(論文では68.3マイクロメートル)ほどの厚みがあり、前側に口が開いて海水とつながっています。

前の研究では、この水の部屋の前側のすきまをわざとふさぐと、オービタルフードが衝撃波の強さを変える力が弱くなることも報告されており、水を押し出してエネルギーをそらす仕組みが働いている可能性が高いと考えられています。

実は、テッポウエビの仲間にはこのヘルメットがない種類や、目の上を部分的におおう「未完成フード」、上からだけおおう「完全フード」、この種のように横からもすっぽり覆う「完璧フード」などいくつかの段階があることも分かっています。

その結果、オービタルフードがあるときには、ない場合に比べて、目と脳にかかる変形の大きさ(ひずみ)が約28%、内部にたまるストレス(応力)が約22%それぞれ減ると予測されました。

さらに、オービタルフードの粘弾性の値を少しだけ変えてみると、興味深いことがわかりました。

実験から求めた「本物のエビと同じ値」のときがいちばん守りの性能が高く、それより硬くしても柔らかくしても、脳や目を守る力が下がってしまったのです。

もしヘルメット部分が普通の甲らと同じ性質だったら、ここまでの防御力は出ないという結果も出ています。

研究者たちは論文の中で、オービタルフードは衝撃波減衰のために最適化されているように見えると述べています。

これらを総合すると、オービタルフードは「たまたまそこにある殻」ではなく、「ショックウェーブを弱めるために、素材の性質と中身の層構造、形と水の部屋まで含めて、かなり細かく“チューニングされたヘルメット”」だと言えそうです。

ある意味で、オービタルフードは「素材+構造+水」を組み合わせた三段構えのショックウェーブいなしシステムだと言えます。

そして有限要素シミュレーションの結果から、その性質は今回シミュレーションで試した範囲では「これ以上いじってもあまり良くならない」レベルまで進化によってチューニングされている可能性もあります。

小さなエビの頭の中で、材料科学と流体の物理と進化がガッチリ手を組んでいる──そう考えると、このヘルメットが、ただの薄い甲らの一部にはもう見えなくなってきます。

この成果は、対衝撃波の防具設計に重要なヒントを与えてくれます。

現代の防具は弾丸や破片には強いものの、爆発で生じるショックウェーブから脳を守るという点ではまだ十分とは言えません。

ですが今回の研究により「硬い一枚板で防ぐ」のではなく、「薄い層を何十枚も重ね、内部に水などの流体の部屋を設けてエネルギーを吸収してそらす」という、「エビ式ヘルメット設計」の発想を人間の防具設計に持ち込めるかもしれないことが示されました。

論文でも、研究者たちはスナッピングシュリンプでの発見が、生き物をお手本にしたショックウェーブ減衰型アーマーの設計を刺激し、爆発による脳損傷から人を守る手助けになることを願っていると述べています。

もしかしたら未来の戦場や災害現場では、兵士やレスキュー隊員が、エビのオービタルフードそっくりの「多層ゼリーヘルメット」を当たり前のようにかぶっているかもしれません。

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