レストランの食事を選ぶ数学、50年間未解読だったファインマンのメモで明らかに
レストランの食事を選ぶ数学、50年間未解読だったファインマンのメモで明らかに / Credit: Richard P. Feynman (estate)
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レストランの食事を選ぶ数学的原理、50年間未解読だったファインマンのメモで明らかに

2026.06.08 19:10:22 Monday

アメリカのプリンストン大学(Princeton)などで行われた研究により、ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンが約50年前に走り書きしたまま判読不能だった「レストラン選びの数式」が解読され、それが数学的に「いちばん得をする正解」だったことが証明されました。

天才が友人とのランチの席で即興でひねり出した答えが、半世紀の時を超え、最適だと裏づけられたのです。

今回の研究ではさらに、その正解を今回はじめて複数の点数分布へと一般化したうえで、私たち普通の人間が同じ問題を実際どう扱っているのかまで突きとめました。

天才の精密な正解と、凡人のざっくりしたやり方。その差は、いったいどれほどあったのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年6月1日に『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』にて発表されました。

How a Richard Feynman formula could explain your dining habits in a new city https://phys.org/news/2026-06-richard-feynman-formula-dining-habits.html
Resolving Feynman’s restaurant problem reveals optimal solutions and human strategies https://doi.org/10.1073/pnas.2509612123

50年間、誰にも読めなかった「暗号」

50年間、誰にも読めなかった「暗号」
50年間、誰にも読めなかった「暗号」 / Credit: Richard P. Feynman (estate)

旅先のレストランで、あるいは行きつけのお店で、あなたもきっと一度はこんな迷いを経験したことがあるはずです。手堅く「間違いない一品」を選ぶ安心感と、「もっと美味しいものに出会えるかも」という冒険心、そのあいだで、私たちの心は毎回ゆれ動きます。

この日、悩んでいた男性の名はラルフ・レイトン。そして、向かいに座っていた友人こそ、ノーベル賞を受賞した物理学者リチャード・ファインマンその人でした。

友人のささやかな悩みを聞いたファインマンは、どうしたか。なんとその場で、この「どっちを選ぶ?」という日常の迷いをひとつの数学の問題に変えて、解いてしまったのです。紙きれに走り書きをしながら、ランチの席で、即興で。

天才とは、こういう人のことを言うのでしょう。

しかしこのときファインマンが導いた数式は、「外食でどっちを頼むか」という小さな話にはおさまりませんでした。

新しいお店を開拓し続けるか、それとも気に入った一軒に通い続けるか。

これは要するに、「新しいものを試して開拓するか、すでに知っている良いものを使い続けるか」という葛藤です。

専門的には「探索と活用のジレンマ(探索=新しい選択肢を探すこと、活用=既知の良い選択肢を使うこと、のあいだの板挟み)」と呼ばれています。

そして、この板挟みは、私たちの人生のいたるところに顔を出します。

引っ越し先の街で、もっといい物件を探し続けるか、そこそこ良い部屋で手を打つか。婚活で、次にもっと素敵な人が現れるかもと探し続けるか、目の前の相手に決めるか。転職するか、今の職場に留まるか。空いている駐車スペースに停めるか、もっと近い場所を探してぐるぐる回るか。

そう、昨日あなたがした何気ない選択も、その奥には同じ構造がひそんでいたのです。「探すのをやめて、決めるべきタイミングはいつなのか?」——これは、人間が生きているかぎり逃れられない、根源的な問いなのです。

数学の世界では、こうした「いつ探すのをやめて決め打ちするか」を扱う問題を「最適停止問題(さいてきていしもんだい=探す行動をどこで止めるのが最も得かを考える問題)」と呼びます。

次々に来る応募者の中から、いつ採用を決めれば最高の人を選べるかを考える「秘書問題」や、どの台を回し続ければ一番儲かるかを探る「スロットマシン問題」も、この仲間です。

実は「いつ探すのをやめるか」という問いは、昔からいくつもの有名なパズルとして研究されてきた、由緒ある難問なのです。

ファインマンがランチの席で解いたのも、まさにこの難問の一種でした。

ところが、です。

ファインマンはこの答えを、論文として発表することはありませんでした。

残されたのは、友人レイトンがたまたま保管していた、あの走り書きのメモだけ。そしてファインマンは1988年に、この世を去ってしまいます。

問題は、そのメモがほとんど判読不能だったことです。

独特の走り書きで書かれた数式の断片は、何を意味しているのか誰にもわからず、まるで暗号のように、その紙きれはおよそ50年ものあいだ、謎のまま眠り続けました。

転機が訪れたのは最近のこと。ブライアン・クリスチャン氏(オックスフォード大学)とトーマス・グリフィス氏(プリンストン大学)らの研究チームが、この走り書きと向き合いました。

そして彼らは、メモの中に「最適停止問題」を解いた痕跡があることを見抜いたのです。

その瞬間、暗号は意味を持ちはじめました。約50年間、意味がはっきりしなかった天才の思考が、約半世紀の時を超えて、ふたたび姿を現したのです。

しかし今回の研究成果は、ただ解読しただけではありませんでした。

研究チームはファインマンの答えが数学的に「いちばん得をする正解」だったことをきちんと証明し、さらにその解を「街のお店の当たり外れの傾向」が異なるさまざまな状況にも使えるように一般化することに成功しました。

その結果、ファインマンが一つの状況について書き残した答えは、いろいろな状況で使える「正解の地図」へと描き直されたのです。

天才の直感が正しかったことを、後世の研究者が厳密に裏づけ、さらにその射程を大きく広げてみせた——それが今回の成果でした。

では、ファインマンがたどり着いた「正解」とは、いったいどんなものだったのでしょうか。私たちはそれを、日常の判断のヒントとしてどう読めるのでしょう?

次ページファインマンの答え=「だんだん下がっていく合格ライン」

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