がん細胞が免疫細胞からミトコンドリアを吸っていると判明!
免疫細胞にとって、がん細胞は「かくれんぼ」と「増殖」が得意な厄介な敵です。
しかし、がん細胞と免疫細胞の相互作用は十分に解明されておらず、人類は体内でどんな戦いが行われているかを視覚的にとらえることはできませんでした。
そこで今回、MITの研究者たちは、がん細胞と免疫細胞(T細胞)を互いの近くに設置し、何が起きているかを電子顕微鏡で直接撮影することにしました。
すると興味深いことに、がん細胞からナノチューブと呼ばれる、極細のストローのような突起が伸びてT細胞に接続していることが確認されました。
通常ナノチューブは、細胞同士がお互いにコミュニケーションを行い、ミトコンドリアなどのエネルギー生産ユニットを融通し合う場合に使われます。
ですが、がん細胞とT細胞は本来ならば敵同士。
通常の細胞同士のようにコミュニケーションやエネルギーの融通をする関係にはありません。
ですが興味を引かれた研究者は試しに、がん細胞とT細胞を一緒の培養皿で育ててみることにしました。
結果、意外な事実が判明します。
がん細胞とT細胞を一緒に育てることで、単独で培養するよりがん細胞の増殖能力が増し、2倍の速度で酸素を消費するようになっていたのです。
一方でT細胞の酸素消費量は低下し、数はどんどん減っていきました。
この結果から研究者たちは、がん細胞がナノチューブを伸ばしてT細胞から何かを吸い取っていると考えました。
ただ今回の場合、その何かの「正体」には既に大きなヒントが出ていました。
細胞の増殖力と酸素消費量は、酸素呼吸とエネルギー生産が行われるミトコンドリアの数に影響を受けるからです。
そこで研究者たちはT細胞の遺伝子を組み変えて、ミトコンドリアが緑色の蛍光を発するように操作。
改めて、がん細胞とT細胞の間に伸びているナノチューブを観察してみました。
すると予想通り、T細胞からがん細胞に向けて緑色に光るミトコンドリアが移動していることが確認されました。
どうやら、がん細胞は本来敵となるT細胞からミトコンドリアを奪う能力があるようです。
新たに発見されたがん細胞の能力は、ライバルであるT細胞の働きを弱めつつ、エネルギー生産ユニット(ミトコンドリア)をゲットできる一石二鳥の美味しい手段と言えるでしょう。
しかし、がん細胞とT細胞を結ぶ秘密の関係を解明しただけでMITの研究者たちは満足しませんでした。
がん細胞がナノチューブを使ってT細胞からミトコンドリアを吸い出しているのならば、ナノチューブの形成を妨害する効果のある薬が、抗がん剤になる可能性があったからです
さっそく研究者たちは、がんになったマウスにナノチューブ形成を阻害する効果のある「PD-1阻害薬」を投与してみました。
結果、マウスの体内で増殖していた腫瘍の体積が半分ほどに減少し、腫瘍の内部にあるT細胞の密度が上昇していることが確認されました。
薬によってナノチューブが切断されたことでミトコンドリアを奪えなくなり、がん細胞がエネルギー不足になって腫瘍が縮小したと考えられます。