人工培養脳にテニスゲームを教えると5分で理解し遊び始めると判明!
これまで多くの研究により、多くの人工培養脳「ヒト脳オルガノイド」が作られてきました。
ですが脳オルガノイドは高度な神経回路を備え、なかには世界を見渡す目を持つものもありながら、人間のために「仕事」をすることは期待されずにいました。
今日にいたるまで、彼らは人間の脳の代用実験体として、薬剤漬けにされたり、切り刻まれたり、遺伝子を組み変えられたりすることが主な存在理由だったのです。
そこで今回、ロンドン大学の研究者たちは脳オルガノイドに生きる目的(仕事)を与えることにしました。
ただ新たな脳オルガノイドは、既存のものとはことなり球形ではなく目もはえていません。
ヒト幹細胞を変化させてヒト脳細胞を作るまでは同じですが、研究者たちは製造された脳細胞を無数の電極が設置された基盤の上に、平面上に分散させたのです。
例えるならば、クレープ焼き器の上にクレープの生地を塗るように、基盤の上に脳細胞を塗って、薄いシート状の脳オルガノイドを作ったとも言えます。
基盤上に設置された脳オルガノイドはしばらくすると、活発な神経活動を開始し、本物の脳のようにニューロンどうしが複雑なネットワークを作るようになます。
次に研究者たちは、古典的な壁あてテニスゲームを脳オルガノイドに教えるための仕組みを構築しました。
壁あてテニスゲームは上の動画のように「板」を操作して跳ね返ってくる「ボール」を撃ち合うゲームです。
コンピューターゲームが珍しかった時代では、このような単純なゲームであっても人々を熱中させていました。
この壁あてテニスに着目すると、動きがある物体が「板」と「ボール」の2つのみであることがわかります。
そこで研究者たちはシート状の脳オルガノイドの上部分をボールの位置情報を受け取る「感覚領域」、下部分を板の操作を受け付ける「運動領域」として指定しました。
そしてボールが板から遠くにあるときには「感覚領域」に遅い頻度、板の近くにあるときには高い頻度で電気刺激し、遠近の概念を脳オルガノイドに教えます。
また遠近に加えて、ボールがテニスコートの右よりか左よりかを教える刺激パターンを学習させることにしました。
この組み合わせによって、テニスコートのどこにボールがあるのかを、脳オルガノイドは理解できるようになりました。
さらに運動領域の電極から非対称な神経活動がみられた場合、ゲーム画面の板を右あるいは左に動くように設定を行いました。
加えて、ボールを跳ね返すのに成功した場合には決められた電気刺激、失敗して落ちてしまった場合には、ランダムな電気刺激を与え、結果を通知しました。
すると脳オルガノイドはわずか5分でゲームのルールを理解し、ゲームが上達していることが確認されました。
ちなみにさきほど表示したこのゲームプレイ映像ですが……実はプレイしていたのは人間ではなく脳オルガノイドでした。
電極を通して感覚領域に伝えられたボールの位置情報をもとに、脳オルガノイドは自らの意思で、運動領域で非対称な活動を発生させ、電極を介して板を操作してボールを跳ね返したのです。
まとめると
ゲーム機からボールの位置を脳オルガノイドの感覚領域にリアルタイムに送信➔脳オルガノイドの「意思のようなもの」がゲームをすると決断➔脳オルガノイドの運動領域が非対称に活性化➔ゲーム内の板が左または右に動く➔ボールを跳ね返すことに成功➔最初に戻る
となります。
また脳オルガノイドに提供するボールの情報が多いほど、ボールを跳ね返す制度が高くなることがしめされました。
同様の学習はシリコン製のAIでも可能であり、最終的には脳オルガノイドよりもはるかに高い成績を出すことが可能になります。
しかしゲームのルールを理解する速度は、脳オルガノイドが圧倒的に勝っていました。
脳オルガノイドは僅か5分でルールを理解し、それなりの成績を叩き出すようになりましたが、シリコン製のAIが同じ成績たどり着くには、14倍にあたる90分以上の時間がかかりました。
この結果は、脳オルガノイドはシリコン製のAIに比べてはるかに柔軟で理解力に富むことを示します。
しかしより興味深い実験は、同じ実験をヒトではなくマウスの脳細胞から作ったマウス脳オルガノイドで行ったときに得られました。