脳オルガノイドは好奇心の原形を備えている
今回の研究により、脳オルガノイドには優れた理解力があり、ゲームをプレイする意思と知能を持つことが示されました。
新たな脳オルガノイドには上の図のような目を備えたものではありませんでしたが、ゲームの様子を再現する内部世界(心の世界)を備えていることは確かです。
そのため研究者たちは
「電極でゲームに接続された脳オルガノイドはマトリックスのような仮想世界に住んでおり、自身を「板」だと信じている」
と結論しています。
これまで脳の代用品として疑似的な人体実験の材料にされていた脳オルガノイドですが、適切な教育が行われれば、優れた理解力と判断力、意識と知性を備えられるようです。
また重要な点として、研究者たちは脳オルガノイドにゲーム世界での遊び方を教えたものの薬物による「動機付け」は行っていないことがあげられます。
たとえば脳の報酬系を刺激するドーパミンなどの神経伝達物質を学習には使っていません。
そのため研究者たちは、脳オルガノイドは失敗時に受ける、ランダムな刺激(ビックリ)が嫌いで、成功時に受け取る決まった刺激(安定)が好きであると考えました。
情報処理を担う神経網にとって負担となる不確実性を最小限にする行動をとった結果、ゲームをプレイすることになったと考えられます。
研究者たちは、不確実性を減らすために情報を求める行動は、好奇心の原形であると考えています。
どうやら人間の知的活動において重要な位置を占める好奇心の原形を、脳オルガノイドも備えていたようです。
研究者たちはとりあえずの計画として、ゲームをプレイ中の脳オルガノイドにさまざまな神経作用のある薬を与えることで、どのような影響が現れるかを調べていくとのこと。
人道的な問題から人体実験が不可能であった、脳への神経物質の投与と精神活動の変化を調べることができれば、新薬開発にもつながると期待されます。
なお今回の研究において、基盤の上に配置された脳細胞数はおよそ80万~100万個であり、ゴキブリの脳とほぼ同等となっています。
より多くの脳細胞を導入し、基盤を積層することができれば、コンパクトな容量で、より高度な判断、高度な仕事が可能な脳オルガノイド……生体コンピューターが実現すると考えられます。
そうなれば、単純なテニスゲームのルールではなく、複雑な人間の「言語」を教え「会話」をすることも可能になるでしょう。
将来、高度な認知能力を備えたロボットが実現するとしたら、彼らの制御中枢はシリコン製のAIではなく、生きた脳細胞で構成されているのかもしれませんね。