脳の性別は遺伝子と関係しなかった!
近年の急速な技術進歩により、ヒトiPS細胞(万能細胞)を材料にしてヒトの胃や腸、肝臓、腎臓などの内臓や脳を人工的に培養することが可能になってきました。
特に人工培養脳(脳オルガノイド)は有用であり、人間には許されないような実験の代用品として使用することで、ブラックボックスであった脳の謎を解明することに成功しています。
しかし、これまで作成されてきた脳オルガノイドには、細胞レベルでの「性差」がありませんでした。
男性の遺伝子を持つ脳オルガノイドも女性の遺伝子を持つ脳オルガノイドも、同じようなパターンで成長し、生きている人間の男女の脳にみられる違いが存在しなかったのです。
そこで今回、MRCの研究者たちは、脳オルガノイドに男性ホルモンのアンドロゲンを投与して、何が起こるかを調べることにしました。
人間の脳は、胎児期に子宮内でアンドロゲンを浴びることで男性化が起きると知られており、同じような変化が脳オルガノイドでも起こると考えたからです。
結果、アンドロゲンを投与することで脳オルガノイドは、サイズの増大・ニューロン密度の増加といった、人間にみられる男性化と同様の変化を起こすことが判明します。
(※具体的には、アンドロゲンが皮質前駆細胞の増加をうながし、ニューロン数の増加につながっていました)
興味深いのは、脳の男性化が細胞の遺伝子に無関係で起こることにあります。
アンドロゲンが投与された脳オルガノイドは、遺伝子が男性(XY)であろうと女性(XX)であろうと、同じような男性化を起こしたのです。
人間の場合も脳の男性化は遺伝子に関係なく、子宮の内部にいる胎児期に浴びるアンドロゲンの量によって決まることが知られています。
この結果は、ヒトiPS細胞から作られた脳オルガノイドにも、生きている人間と同じ男性化のシステムが細胞レベルで存在することを示します。
どうやら、人間も人工培養された脳オルガノイドも、脳の性別(心の性別)は遺伝子ではなく、ホルモンバランスの微妙なバランスによって「後付け」されたもののようです。
しかしより重要な点は、増加したニューロンの質の違いにありました。
アンドロゲンは脳オルガノイドの脳細胞の性質に、どんな影響を与えたのでしょうか?