物語の「絶滅」を生物学的に分析した研究が発表!
物語は文化という環境の中を生き抜く「生命」としての側面があります。
物語も生物と同じように誕生し、複製され、ときには突然変異し、災害や戦火で完全に失われ「絶滅」することがあります。
また物語の内容はDNAと同じく文字列でつづられており、生物と同じく複製のたびにエラーが発生します。
最新の研究では、生物の突然変異は中立かつ均等に起こるのではなく、酸素呼吸のように生存に不可欠な遺伝子には、変異が起きにくいようにプロテクトがかけられていることがわかっています。
同様に物語が複製されるときに生じるエラーも、文末表現やちょっとした表現の違いなど重用でない部分で起きやすい一方で、主人公の名前など重要な部分は変化が起こりにくくなっています。
物語には突然変異の概念も存在します。
書き写しを行っている人物の気まぐれで、ちょっとした小話が刺し込まれる小さな変異から、他の物語の一説をまるまる取り入れたり、特定の場面をごっそり削除する置換や欠損がたびたび起こります。
そしてときには、全く別の物語と融合を起こし、2つの物語の主人公のが1人へとまとめ上げられる習合が起こります。
物語の繁殖と衰退も生物と同じように起こります。
文化に適応した(人気になった)ものは複製が盛んになって急激に増殖する一方で、適応性が低い(不人気な)ものは複製も少なく減少していき、最後には絶滅してしまいます。
また絶滅は単なる衰退だけが原因ではありません。
巨大隕石や破局噴火などによる生命の大量絶滅が起こるのと同じく、物語にも大規模な絶滅が発生します。
印刷技術がなかった時代、物語は全て手書きで複製されており、増殖率は極めて限定的でした。
また物語の生息地も広くなく、主に王族や貴族の邸宅、図書館、修道院など限られた場所にのみ存在しました。
そのためこれら限定された生息地が火災などで失われるたびに、膨大な物語が「絶滅」したのです。
また物語は生物と同じく系統樹があり、時間や距離の乖離が大きいほど、遺伝子というべき内容の違いが大きくなる傾向があります。
このように、物語には生物と同じように思える要素が複数みられます。
そこで今回、オックスフォード大学の研究者たちは、物語の進化と絶滅の歴史を、本来ならば生物に対して適応される「生態学」を用いて分析することにしました。
現代のスーパーコンピューターを用いるような高度な生態学では、現存する生命の遺伝的な解析を行うことで、現代の生物がいかにして拡散したかや、絶滅した生物の数や絶滅した時期を、かなりの精度で予測できるようになりました。
生物的な挙動をする物語に対してこの生態学的な分析を行えば、生き残っている物語と絶滅した物語の比率も算出することが可能です。
研究者たちはさっそく、物語の性質を生物に置き換えて、生態学的な調査を行いました。
すると物語の世界の厳しい現実が浮き彫りになります。