タブレットに刻まれた「呪いの言葉」とは?
本研究のプロジェクトリーダーを務めたABRのスコット・ストライプリング(Scott Stripling)氏いわく、「呪いのタブレット(curse tablet)」が見つかったのは、2019年12月のこと。
ヨルダン川西岸地区の北部にあるエバル山にて、発掘調査にともなって出た堆積物の中から発見されました。
(ヨルダン川西岸地区:ヨルダンとイスラエルの間に位置し、現在、パレスチナ自治区の一部を形成するヨルダン川より西部の地域を指す)
この堆積物自体は、1980年代の同地における発掘調査で廃棄されたものだという。
ABRの研究チームは、それらの堆積物を洗浄してふるい分ける作業の中で、今回の「呪いのタブレット」を見つけています。
タブレットは、2.5×2.5センチほど(切手サイズ)の非常に小さなもので、石ではなく、鉛のシートを折りたたむようにして出来ていました。
年代測定はまだ行われていませんが、発掘地の層位学(その場所の地層のできた順序を明らかにする手法)によれば、このタブレットは、少なくとも紀元前1200年頃、さらに古ければ紀元前1400年頃のものと見られています。
また、CTスキャン(コンピューター断層撮影)でタブレットを調べたところ、折りたたまれた鉛の外側と内側に、40個の初期ヘブライ語の文字を発見。
これを解読した結果、次のような呪いのフレーズが浮かび上がりました。
ここでは、一度英語に訳したものと合わせて記載します。
「呪われた、呪われた、呪われたー神ヤハウェ(YHW)によって呪われた。
お前は呪われて死ぬだろう。
呪いによってお前は必ず死ぬ。
ヤハウェ(YHW)によって呪われたー呪われた、呪われた、呪われた」
ストライプリング氏によると、この碑文は「法的拘束力のある契約を結んだ人が、その義務を果たさなかった場合にどうなるかを警告したもの」という。
これまでに確認されている、最古の初期ヘブライ語の証拠は、2008年にエルサレム北西で見つかった「ヒルベト・ケイヤファ(Khirbet Qeiyafa)」の碑文で、紀元前11世紀末〜10世紀初めのものです。
今回の年代が正しければ、その記録を数百年ほど更新することになります。
さらに、このタブレットは、旧約聖書の唯一神・ヤハウェをあらわす「テトラグラマトン」の証拠としても最古と見られます。
テトラグラマトンは、ギリシア語で「四つの文字」を意味します。
ヘブライ語で「神様」のことを「ヤハウェ(エホバとも)」と言いますが、その名前を口にするのは固く禁じられていたので、古代人は代わりに、ヤハウェをあらわす神聖四文字(ローマ字では「YHWH」と表記)を用いたのです。
ただし、タブレットに確認されたのは4文字でなく、「YHW」の3文字でした。
まとめ
今回の発見は、古代イスラエルの歴史への理解を深める貴重な発見となりますが、一方で、専門家の間には疑問を呈する声も多いという。
というのも、タブレットに関して詳しい年代測定がされておらず、「最古の古代ヘブライ語の碑文」と断定するのは尚早すぎると指摘されています。
この研究が、論文として正式に発表されるまでは評価できないと言われています。
これに関し、研究主任のストライプリング氏は「今年中にも、論文を考古学雑誌に発表する予定」と主張。
その前に記者会見を開いた理由については、「タブレット発見のニュースが別のところから漏れ出る前に自分たちで発表しようと決めた」と述べています。
公式の研究発表を待ちたいところですが、いずれにせよ、歴史家が驚くほどの遺物であることは間違いないでしょう。