リアルな「陽子の視覚化」映像が科学者とアーティストのコラボで完成
原子や分子のモデル図は、多くの人々にとって思い浮かべるのは難しくないでしょう
上の図のような球体を組み合わせた「おなじみ」のモデル図は、中学生たちが化学を理解する手助けをしてくれます。
ただ実際の原子や分子の様子はモデル図とは異なり、原子核の周囲に電子の存在確率が雲のように広がっていると考えられています。
では陽子の場合はどうでしょうか?
高校で物理を専攻したひとならば、上の図のように、3つのクォークがグルーオンで連結されているモデル図を思い出すかもしれません。
しかしこのイメージも簡略化されたモデル図に過ぎません。
では実際の陽子はどんな「感じ」になっているのでしょうか?
このなんでもない問いかけは、日本の高校物理ではあまり語られることがありません。
というのも、陽子の内部では光速に近い速度でクォークとグルーオン飛び回り、何も存在しない場所から素粒子が現れては消えていくという、極めて流動的な状態になっているからです。
このような流動的な状態を紙面のモデル図や立体模型を使って表現することは極めて困難でした。
そこで今回、MITの研究者らは、アニメーションを使って陽子の実際の「感じ」を視覚化することにしました。
視覚化にあたり最も重視されたのは、実際の観測方法の概念を取り入れることです。
またアニメーションを表現する際には、生成と消滅を繰り返す粒子、量子色力学に対応する色表現、相対性理論など物理学の本質に忠実であるように努められました。
その結果得られたのが、次のアニメーションになります。
アニメーションでは左のグラフのバーが右側に移動するにつれて、陽子のモヤっとした状態が3色のハッキリした粒子状態に変化していく様子が映されています。
モヤっとした部分が力を媒介する粒子「グルーオン」であり、3つの点にあたる部分が物質を構成する素粒子「クォーク」となっています。
携帯などで撮影する動画の場合、このような状態変化は通常、時間の流れによって引き起こされます。
しかし今回の場合、変化しているのは時間ではなく「撮影時間」の長さになります。
(※正確にはBjorken-xの大きさ:クォークの運ぶ運動量の割合の大きさになります)
陽子を構成するクォークやグルーオンは光速に近い速度で飛び回っているために、観測する時間の長さが変化すると観測結果も大きく変化します。
観測時間が短い場合(バーが左にある場合)陽子の様子はグルーオンのモヤによって支配されています。
しかし観測時間が中くらいになると(バーが真ん中に来ると)グルーオンが1つのクォークと1つの反クォークを対生成する様子がみられはじめます。
陽子の中は非常にダイナミックな世界であり、粒子の対生成や対消滅が絶えることなく続いています。
そしてより観測時間が長くなると(バーが右端に来ると)グルーオンの雲が薄くなり、陽子の構造が3つのクォークによって支配されている様子がみられます。
ここで3つのクォークの色が変化しているのは、量子色力学の理論が反映されているためです。