そもそも「量子もつれ」や「量子テレポーテーション」とは何か?
通信における長距離の情報伝達は、セキュリティが非常に重要です。
従来の通信方法では、情報を2種類の信号(1と0)で表現し、これを電線や光ファイバーを通じて目的地に送信しています。
しかし、量子力学の原理を通信に導入することで、量子ビットを増やすごとに、使用可能な信号パターンを2種類から増やし、より多くの情報をより高速かつ安全に送ることが可能になります。
その代表的な方法が「量子もつれ」を使用した「量子テレポーテーション」です。
量子テレポーテーションでは、量子もつれの状態にある粒子を用いて、一方の粒子に何らかの操作を行うと、もう一方の粒子に即座に影響が現れるという量子力学の特性を利用します。
ただ、多くの人にとっては言葉だけではイメージしずらいかもしれません。
そのためまずは、原始的な情報伝達法を例に仕組みを考察します。
情報を一瞬で伝える方法として最も原始的なのものは、長い板や棒を使ったものでしょう。
例えば細長い板を使う場合、獲物となる鳥が見えない時に裏、見えるときに表という取り決めをしておけば、監視者(送信者)は鳥があらわれたことを、離れた場所にいるハンター(受信者)に素早く静かに知らせることが可能になります。
この通信方法を少し小難しく考えると、背後には送信者側が表なら受信者側も表という「一方が〇〇ならばもう一方は〇〇」という決まった関係が存在することに気付くでしょう。
量子もつれでは、この「一方が〇〇ならばもう一方は〇〇」という決まった関係を細い長い板の端と端ではなく、2つのもつれ関係にある粒子の間で形成します。
たとえば光を特殊なクリスタルに入れて分割すると、一方が縦揺れでもう一方が横揺れという状態を作る、2つのもつれた粒子を作れます。
ただこのとき縦揺れと横揺れの光が左右どちらに行くかといった情報は観察されるまで宇宙には存在しません。
存在するのは「一方が縦揺れならばもう一方が横揺れ」という関連性のもつれを繋ぐ見えない糸だけです。
この奇妙な現象を、男女の恋人のうち1人が北海道、もう1人は九州に行く場合で考えます。
すると「一方が男であるならば、もう一方が女になる」という決まりだけが見えない糸として存在しており、北海道と九州に存在している人は、観測されるまで性別の情報が宇宙に存在せず、男でも女でもない状態で存在していることになります。
人間を例にとると奇妙さが際立ちますが、日常の常識が通じない量子の世界ではこの理解のほうが正しいのです。
しかしこれはまだ序の口に過ぎません。
真に奇妙な現象は、観察を行うと同時に起こり始めます。
観察を行った瞬間、縦揺れでも横揺れでもなかった光に変化が起こり、どちらか(図では縦揺れの光)として生まれ変わります。
そして一方(右)が縦揺れの光に生まれ変わったという情報は、2つの光の間を結ぶ見えない関係性の糸を伝ってもう一方(図では左)に瞬時にテレポートしたかのように転送され、左側の光が横揺れの光として再構成されるのです。
「右側の光が縦揺れならば左側の光が横揺れになる」という結果自体は日常の常識と同じです。
しかし「観測することではじめて情報が出現する」という点、そして一方を観測したという情報が瞬時にテレポートして、もう一方の光の特性を再構築するプロセスは、日常の常識とはかけ離れたものです。
さらに、理論的には、右と左の距離が銀河の端と端であっても、右側で観察したという情報は見えない糸を通って一瞬で左側に伝達され、光の再構築が起こります。
正直言って「信じがたい」「嘘くさい」と思う人もいるでしょう。
(※量子もつれと量子テレポーテーションの仕組みの詳しい仕組みについては以下の記事を参考にして下さい)
しかし人間の直感に反するからと言って、それが嘘であるとは限りません。
量子もつれが発見されてから現在に至るまで無数の実験が行われてきましたが、この直感に反する現象が本当であることを示す結果になりました。
そこで今回、ウィットウォーターズランド大学の研究者たちは、このテレポーテーションの仕組みを使って実際に画像データを転送してみることにしました。