画像情報は傍受不可能なテレポートで転送される
先に述べたように量子もつれでは「一方が縦揺れならばもう一方は横揺れ」というような関係だけが見えない糸で結ばれています。
そして一方の観測されたという情報は見えない糸を伝って瞬時に転送され、もう一方の状態を確定します。
ある意味で量子もつれは、宇宙全体を紐に使った糸電話のような仕組みとも言えるでしょう。
ここで重要になるのが、外部からの干渉です。
観測を行うまでは送信者側にある粒子の情報も受信者側にある粒子の情報も宇宙に存在していません。
今回の研究では、送信者側にある粒子に対して「量子もつれが壊れない程度の強さ」で外部からの操作を行って、強制的に粒子の状態(を縦揺れか横揺れかなど)を自由に変化させる方法が使われました。
受信者が観測する前に、送信者側で結果の操作を行うわけです。
すると送信者側の粒子の操作によって、受信側の粒子の状態も変えることが可能になります。
八百長のように思える仕組みですが、こうすることで送信者の元にある光子の状態と送りたい画像の情報の内容をリンクさせることが可能になります。
たとえば「縦揺れを1」「横揺れを0」のように粒子の状態を特定の意味に当てはめることで、送信者側の持つ画像データを受信者側に情報としてテレポートことが可能になります。
今回の研究では、この光子の操作や情報の変換には「非線形検出器」と呼ばれる装置が用いられました。
ここで着目したいのは、このデータの転送が起こる時、送信者側と受信者側の間には電波や電線や光ファイバーなど、いかなる情報伝達の手段も存在しないことです。
粒子が縦揺れか横揺れかの情報は、宇宙の裏側に張り巡らされたかのような「見えない関係性の糸」を使って瞬時にテレポートするからです。
そして見えない関係性の糸を通る情報速度は理論上、無限大とされています。
そのため、この段階で送信者と受信者が1億光年離れていても、画像データは瞬時に届けることが可能になります。
こう言うと「ついにSFに出てくるような超光速通信が実現するのか?」と思われるかもしれませんが、残念ながら違います。
というのも、結果を操作するだけの送信者側と違って、受信者側では粒子の状態を知るためは「観測」が必須となるからです。
たとえば送信者と受信者の間にもつれ状態の光子が100個ペア存在する場合「100ピクセル」の画像データを受信者側が観測した時点で、コミュニケーションは終了してしまいます。
新たな通話を行うには、再びもつれ状態の光子を100ペア生成し、送信者側と受信者側に届ける必要があるのです。
たとえば量子ペアを使い切った段階で送信者と受信者が1億光年離れていた場合、新たな光子のペアを届けるには光の速度でも1億年かかります。
そのため量子テレポーテーションを使った実質的な情報伝達は光の速度を超えられないと言うことができます。
(※地球にいる段階で100ペアのもつれた光子をわけあって、その後1億光年離れた場合のみ、やや特殊であり、その後はもつれた量子ペア数が尽きるまで画像でのやり取りが可能です。画像データの容量を節約すればするほど情報の往来を増やすことも可能でしょう)
また、この技術では送信者と受信者の間で、物理的な情報は移動しません。
情報のテレポートは見えない関係性の糸を辿って瞬時に行われるからです。
そのため基本的に両者の間での情報の傍受は不可能となり、情報伝達の安全性が高まります。
ただ研究者たちは、画像データをもとに光子の操作を行う非線形検出器(画像読み込み機)にハッキングが行われた場合には、情報が盗まれてしまう可能性があると述べています。
(※送信前の段階で情報が盗まれてしまう場合には、傍受への耐性は無駄になるからです)
研究者たちは今後、送信者と受信者にもつれ状態にある量子を配る方法として、既存の光ファイバーネットワークが使えるかどうかを検討していくと述べています。