重力で量子力学の確立ルールは歪むのか?

アインシュタインの理論によると、重力が強い場所では時間の流れが遅くなります。
これは「重力による時間の遅れ」と呼ばれています。
SF映画『インターステラー』では、ブラックホールの近くで時間がゆっくり進む場面が出てきます。
実際に、高さの違う場所に置いた原子時計でも、この時間の遅れは観測されています。
ただし、地球上でのこの違いはとても小さいものです。
そのため、地球でこうした変化を調べるには、とても正確な光学式の原子時計や、精密な量子の測定技術が必要になります。
これまでにも重力が量子に与える影響を調べた研究はありましたが、それはあくまで古典的な重力、つまりニュートンの理論の範囲での話でした。
本当に「曲がった時空」による量子への影響は、これまで観測されたことがありませんでした。
一方で、量子の世界では結果を完全に予測することはできません。
できるのは、ある結果が出る「確率」を計算することです。
そのための基本ルールが「ボルン則」です。
ボルン則では、量子の波のような性質から、粒子が現れる確率を決めることができます。
しかし、一部の理論物理学者たちは、強い重力のある場所では、このルールが少し変わる可能性があると考えてきました。
たとえば、空間や時間が大きく曲がっていると、粒子の出現する確率にズレが生じるかもしれないというのです。
実際、過去の研究では、重力のある場所で量子の性質が変わるような現象が観測されたこともあります。
たとえば、重力によって中性子が特定の高さにとどまったり、干渉実験で干渉のパターンがわずかにずれたりすることがありました。
でも、これらはすべてニュートン的な重力の範囲で説明できるもので、本当の意味で「時空のゆがみ」が量子に影響を与える例ではありません。
ところが最近では、光学式原子時計の精度が飛躍的に向上してきました。
さらに、遠く離れた量子装置を結びつける「量子ネットワーク技術」も発展しています。
そのおかげで、今まで難しかったこの問題にも、挑戦できる土台が整いつつあります。
そこで研究者たちは、「地球の重力でボルン則が本当にゆがむのか?」という問いに挑むための実験プランを立てたのです。
いったいどうやったら地球の重力が量子力学のルールを歪ませていることを証明できるのでしょうか?