電気ウナギはどのように電気器官を進化させたの?
電気ウナギなどに代表される電気魚たちは、体内にある電気器官によって体外に電気を発する能力を持っています。
電気器官の大きさや出力は種ごとにさまざまであり、電気ウナギのように攻撃方法として用いる種だけでなく、周囲の獲物を感知したり、仲間とのコミュニケーションに用いる種も存在しています。
電気が起こるときには、電気器官にある発電細胞において、プラスの電荷を持つナトリウムイオンが専用の取り込み口(ナトリウムイオンチャンネル)により急激に取り込まれることが知られています。
プラスのイオンが勢いよく取り込まれると、細胞の内外で急激な電位差が発生します。
電気ウナギでは、このような電位差をうみだす発電細胞が頭部から尾部へと直列に配置されており、個々の発電細胞が作った電位が積み重なることで、最大で800Vもの電圧を生成することが可能となっています。
家庭用電源が100Vであることを考えると、電気ウナギの電撃攻撃がいかに強力であるかがわかります。
なお当の電気ウナギは体の周りに絶縁体の役割をする分厚い脂肪があるために、自分の電撃で痺れてしまうことはありません。
また近年の研究により、電気器官の多くは筋肉が変化したものであることが明らかになっています。
筋肉では脳から電気信号が送られてくると、ナトリウムイオンを細胞内に取り込んで細胞の内外で分極を起こし、その電気的な分極がシグナルとなって大規模な筋収縮を発生させる準備を行います。
つまり電気器官も筋肉も、同じようにプラスイオンの取り込みによる細胞の分極が動作の基本にあったのです。
しかし、いったいどんな遺伝子が筋肉や電気器官でのイオン取り込み口の出現を制御しているかは不明でした。
そこで今回、テキサス大学オースティン校の研究者たちは電気魚たちの体で働いている遺伝子を比較し、筋肉と電気器官の違いを比較することにしました。
すると普通の魚の筋肉には2種類のナトリウムイオンの取り込み口が分極になっている一方で電気魚の筋肉では1種類しのみしかなく、もう1種類は発電器官のみに現れるようになっていたと判明します。
どうやら電気魚たちは筋肉に2つあったイオンの取り組み口のうちの1つを、あえて筋肉で働かないようにし、電気器官にのみ現れる発電専用の取り込み口にしていたようです。
研究者たちは、筋肉と電気器官で別のイオン取り組み口を使うようにすることで、筋肉の動きに影響を与えない、効率的な発電が可能になったと考えています。
さらに電気器官でのみ働くようになった電気魚のイオン取り込み口の遺伝子を調べたところ、この遺伝子を筋肉で活性化させるために必要な20文字ほどの塩基配列が失われていたり、劣化していることが発見されました。
この結果は、一部の電気魚たちの発電能力がわずか20塩基対の変化で大幅に強化されていることを示します。