脳治療に役立つ磁気制御マイクロデバイス
脳治療に役立つ磁気制御マイクロデバイス / Credit:Depositphotos
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脳卒中による血腫を取り除く磁気制御のマイクロデバイス

2022.06.18 Saturday

脳卒中とは、脳の血管が破れたり詰まったりする疾患です。

特に脳の血管が破れて出血すると、1カ所に血液がたまって凝固した「血腫(けっしゅ)」がつくられ、周囲の脳を圧迫したり、脳細胞を破壊したりします。

また体内に埋め込まれた治療用のチューブが、血腫で詰まることもあるのだとか。

そこで、アメリカ・パデュー大学(Purdue University)のウェルダン生体工学部に所属するヒョウォン・リー氏ら研究チームは、蓄積した血腫を除去する「磁気制御マイクロデバイス」を開発しました。

これによりチューブ内の詰まりが改善され、患者の生存率が大きく向上します。

研究の詳細は、2022年1月26日付の科学誌『Nature Communications』に掲載されました。

Microrobot device removes brain hemorrhages due to strokes or aneurysms https://www.purdue.edu/newsroom/releases/2022/Q2/microrobot-device-removes-brain-hemorrhages-due-to-strokes-or-aneurysms.html
Application of magnetically actuated self-clearing catheter for rapid in situ blood clot clearance in hemorrhagic stroke treatment https://www.nature.com/articles/s41467-022-28101-5?

脳室内出血と治療用チューブの詰まり

脳室では髄液がつくられている
脳室では髄液がつくられている / Credit:Fuminofujiyama(脳科学事典)_脳室

の内部には「脳室(のうしつ)」と呼ばれる髄液で満たされた空間があります。

ところが脳内で出血があると、それらの血液が脳室内部に流れ込み、血液の塊である「血腫」をつくります。

この出血と症状のことを、「脳室内出血」と呼びます。

そして脳室内の血腫が大きくなると、髄液の生産や循環を阻害。

脳室内の髄液量のバランスが崩れることで、「水頭症」を引き起こしてしまうのです。

水頭症になると、歩行障害、めまい、物忘れ、また尿失禁など、脳機能にトラブルが生じてしまいます。

水頭症はいわば「頭に水(液体)がたまった状態」であるため、これを治療するには、脳室にたまった血腫や余分な脳髄を、チューブを使って排出しなければいけません。

チューブで血腫や余分な髄液を排出
チューブで血腫や余分な髄液を排出 / Credit:Depositphotos

しかしこの排出作業はすぐに終わるものではありません。

入院してチューブから外に排出するケースもありますが、場合によっては、頭とお腹の中にある腹腔をチューブでつなぎ、血腫や髄液を一定期間排出し続けるような手法も取られるほどです。

そして、ここでも問題が生じます。

このチューブが血腫で詰まることがあるのです。

これに対処するための方法としては、抗凝血剤(血液をサラサラにする薬)の使用があります。

ただこの薬には副作用も多く、使用にはリスクが伴います。

そこで研究チームは、血腫によるチューブ詰まりを物理的に解消するマイクデバイスを開発することにしました。

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