大絶滅後の海洋はどのように変化した?
研究チームは今回、中国南部に大量に見つかっている痕跡化石(生物や巣穴の痕)を対象に、時代ごとの生物の活動レベルを調べることで、大絶滅後の回復プロセスを解明することにしました。
研究主任の一人であるマイケル・ベントン(Michael Benton)氏は「ペルム紀末の大量絶滅と、それに次ぐ三畳紀初めの回復の詳細を示す化石群は、中国南部の全域で非常によく記録されている」と話します。
そこでチームは、合計400カ所から痕跡化石をサンプリングし、ペルム紀末から約700万年間の海洋生態系の変遷を再構築しました。
その結果、次のような絶滅〜回復へのプロセスが復元されています。
まず、(A)は大絶滅前のペルム紀の海洋生態系を表し、多様なベントスやネクトン、穿孔(せんこう)動物が存在しています。
ベントスとは、海底に生息する底生生物を指し、ネクトンは、水中を遊泳できる漂泳生物を指します。この漂泳生物のうち、水流に逆らって泳げるものをネクトン、逆らって泳げないものをプランクトンと呼びます。
ちなみに、水面上に浮かびながら生きる生物はニューストンといいます。
それから、穿孔動物は、海底やサンゴに巣穴を掘って、その中で暮らす生物のことです。
(B)は約2億5200万年前の絶滅直後を表し、大型のネクトンやサンゴは姿を消し、わずかなベントスや穿孔動物を残すまでに激減しています。
続く(C・D)は絶滅後の約2億5190万〜2億5120万年前を示し、生物多様性の減少が伺えます。
穿孔動物もほとんど見えません。
しかし、(E・F)の約2億4900万〜2億4500万年前になると、ベントスや穿孔動物の多様性が一挙に回復し、大型のネクトンも種数を増やしていました。
サンゴや二枚貝は回復が遅れた
化石の分析結果を検証した結果、大絶滅からもっとも早く回復したのは海底に生息するグループ(ベントス)だったと判明しました。
ただ、このベントスの中でも復活の時期には差が見られました。
特に早くに復活を遂げたのは、海底ワームやエビのグループで、反対に二枚貝やサンゴなどのベントスは復活が遅く、絶滅前の水準に戻るのに約300万年ほどがかかってました。
その理由について、研究者たちは、海底ワームやエビは、海底に沈殿した有機物を食べる沈積物食動物(deposit feeder)であるのに対して、二枚貝やサンゴは水中に浮遊する有機物を食べる懸濁物食動物(けんだくぶつしょくどうぶつ:suspension feeder)だったことが関係すると考えています。
この回復までのタイムラグについて、同チームで南カリフォルニア大学(USC)のアリソン・クリブ(Alison Cribb)氏は、次のように説明します。
「おそらく、最初に復活した沈積物食動物が、海底の泥を攪拌(かくはん)したことで、懸濁物食動物がうまく海底に定着できなかったか、あるいは、泥水が彼らのフィルター構造を詰まらせて、効率的な採餌を不可能にしたものと考えられます」
しかし、それも落ち着きを取り戻した頃に、懸濁物食動物が回復し、さらに、大型のネクトンたちも再び姿を現し始めたようです。
ペルム紀末の大絶滅は、温暖化や酸素の減少、海洋の酸性化が主な発生原因とされており、本研究の成果は、現代の海洋生態系についても多くのことを教えてくれます。
大量絶滅の後、ある種の生物がどのように生き延び、また回復したかを理解することで、深刻化する現在の温暖化に対し、どの種がどれほどの生存力と回復力を持っているかを知ることができるでしょう。