子を栄養源にして、酸化ストレスを緩和していた
私たちからすると信じがたい行動かもしれませんが、親が子どもを食べる習性は、意外にも多くの生物種で確認されています。
この習性は一見して、種の繁栄を妨げているようにしか見えませんが、実は大きなメリットがあるのです。
たとえばシクリッドの場合、口内で子守りをする2週間は食事ができないため、体重減少や免疫力の低下、老化の進行が生じると考えられます。
その状態で保育を続けると、母親は命を落とす可能性がありますし、稚魚も無事に母体から抜け出せるかどうかわかりません。
しかし、子どもの何割かを食べて栄養源にすることで、健康を増進させ、育児をやり遂げる体を保つことができるのです。
それを支持するように本研究では、子どもを多く食べたメスほど、肝臓の「抗酸化物質(酸化ストレスに対抗する化学物質)」のレベルが高くなることが明らかにされました。
サヴェッキ氏は、これについて「子を通して抗酸化物質を摂取することで、育児によるストレスを軽減するだけでなく、数カ月後に再び産卵するために必要なエネルギーも得ているのでしょう」と指摘します。
「全体から見れば、一度の繁殖サイクルを終えて死んでしまうよりも、子どもを食べて将来また繁殖できるようにした方が、結果として有益だと思われます。
つまり、子どもを食べる行為は、将来の繁殖のための投資なのです」
要するに、一回だけ100%の子どもを世に送り出すより、60%を複数回くり返す方が種の繁栄につながるという戦略なのでしょう。
シクリッドの母親は我が子の繁栄ではなく、種全体の繁栄を見越しているようです。