掴めるならば投げられるはずだ
光ピンセット技術では、原子のような極小の粒子を掴んで移動させることが可能です。
しかし新たに行われた研究では、光ピンセットによって掴まれた原子を、放り投げることに成功しました。
この実験では、光ピンセットで掴んだ原子を目標に向かって加速させ拘束を解除することで放り投げています。
次に放り投げられた原子は、別の光ピンセットの固定能力を利用して徐々に減速され、最大12.6マイクロメートル離れた位置で停止しました。
光ピンセットの固定能力を、原子の加速と減速に利用することで、原子サイズでのキャッチボールを実現したのです。
研究者たちは、原子を投げて輸送する方法には3つの利点があると述べています。
1つ目は輸送効率が高い点です。
これまで光ピンセットを使った原子の輸送は、荷物を持ったまま走る配達に似ています。
しかし直接原子を投げることで移動に要する時間を大幅に減らすことが可能になります。
今回の研究では原子の並びにほころびがない、無欠原子配列を原子の投擲によって実現しています。
2つ目の利点は、電気的に中世である原子も容易に投げられる点です。
また光ピンセットを使った原子の減速性能は非常に高く、既存の減速機(ゼーマン減速機)の10倍の効率を達成可能とのこと。
3つ目は量子コンピューターのビットを投げられる可能性がある点です。
これまで量子コンピューターのコアとなる量子ビットは動かないことが前提でしたが、新たに開発された原子を放り投げる方法を使うことで、量子ビットをコンピューター本体から遠く離れた場所に移動させることも可能になります。
量子のもつれ状態はたとえ銀河の端と端にあっても維持されるために、投げて遠くに移動させることに問題はありません。
量子ビットを移動させることができれば、システム全体の規模を拡大することも可能でしょう。
さらに空飛ぶ原子が量子情報を運んでいる場合、飛んでいく原子は量子通信の媒体として使用することも可能であり、量子コンピューターと量子通信を融合した新たな技術開発も可能になります。
研究者たちは飛翔する原子は今後、さまざまな分野で応用が可能であると述べています。