光ピンセットの基本原理
光ピンセットを一言で例えるならば
『光の焦点で小さな粒子を固定する技術』
となるでしょう。
小さな粒子を操作するには小さなピンセットが必要ですが、通常のピンセットをどんなに小さくしても、原子・分子サイズの物体を動かすことはできません。
そのため光ピンセット技術では、粒子を動かすのではなく「粒子に動いてもらう」ことで固定を実現させています。
光の波長よりも大きなマイクロサイズの粒子の場合
光ピンセットで小さな粒子を掴む原理は、粒子のサイズが光の波長より大きいか小さいかによって異なります。
光の波長よりも粒子サイズが大きい場合、主に働くのは運動量の変化です。
たとえば次の図のように、直進するレーザー光の焦点から少しズレた位置(図では左より)に粒子を置いた場合、当たった光が屈折して曲がります。
光には質量がありませんが運動量が存在します。
そのため、光の進行方向を変えた粒子はことき反作用を受け、光の屈折とは逆の方向に力が働きます。
わかりやすく粒子に腕を生やすと、上の図のように、光を左方向に曲げたぶんだけ粒子は中央寄りに移動します。
同様の光を屈折させてしまった影響は粒子が焦点より右側にある場合にも、焦点の先や後ろにある場合にも働き、粒子を焦点に近づける力が働きます。
結果、粒子は光の焦点近くで掴まれたように固定されることになり、光ピンセットが実現します。
上の動画では実際に、光ピンセットを使って直径5μmの粒子を掴んで移動を停止させている様子が示されています。
光の波長よりも小さなナノサイズの粒子の場合
光の波長よりも小さな粒子を掴む場合は、先程の説明とは違った要因が働きます。
ナノサイズの粒子に光が当たると、粒子内部にプラス極とマイナス極が出現する「分極」が起こり、周囲には中央に向けて光の密度が高まっていく不均一な力場が発生します。
そしてこの場のもたらす光の圧力(勾配力)により粒子は、より光の密度が高い場所(焦点)に向けて吸い込まれるように移動し、固定されることになります。
(※実際の粒子の位置は左側から当たる光の圧力によりやや焦点より右側(下流)に位置します)
研究で使われた粒子「ルビジウム原子」は光の波長より圧倒的に小さいナノサイズの粒子であるため、光ピンセットの固定能力も光の圧力(勾配力)の強さに依存しています。
しかし単に原子を掴むだけならば、過去の研究で何度も行われています。
たとえば2018年に行われた研究では、光ピンセットでつまみ出したわずか2個の原子から化学反応を導くことに成功しています。
そこで今回、研究者たちは新たな要素を加えました。