人とイルカの協力は双方に多大な利益があった!
鳥や魚、虫の群れが動きを協調させることはよく知られていますが、異種間での協力的な同調はごく稀です。
しかしラグナの漁師とイルカは140年もの間、協調的な漁を続けており、その漁法は何世代にもわたって人とイルカの両方で受け継がれてきました。
実は歴史的に見ると、世界の他の場所でも人と動物の協調行動は存在しましたが、今ではそのほとんどが失われつつあるか、完全に消失しています。
それゆえ、ラグナは人と動物の協調行動を研究できる貴重な場所の一つなのです。
では具体的に、どのような漁法なのでしょうか?
まず、双方がターゲットとするのは海辺に広く分布する「ボラの群れ」です。
イルカのグループはボラの群れを見つけると、逃げ場所をなくすために沿岸部へと追いやります。
そこへ待ち構えていた地元の漁師たちが網を投げ入れて、ボラを捕獲するのです。
漁師たちはボラ漁に最適なタイミングを知るため、イルカの動きを注意深く見守り、イルカの動き出しに合わせて沿岸の漁場につきます。
ここから漁師が利益を得ていることは明白ですが、イルカにはどんなメリットがあるのでしょう?
研究チームがそれを調べたところ、イルカはボラの群れを捕らえる際に水中深く潜水して下から攻め込むのですが、外洋だと水面に逃げ場があるため、ボラに逃げられやすくなります。
ところが、漁師が水面に投網(とあみ)することでボラの逃げ場がなくなり、イルカの狩りの成功率が高まるのです。
この際、大人のイルカは経験豊富なので網にかかることはありませんが、若いイルカは時々網に引っかかってしまいます。
しかしイルカとの関係を大切にしているラグナの漁師たちは、網にかかったイルカをすぐに解放することを規則としています。
イルカ側もそれを理解しているので、140年以上も漁師との協調関係を続けているのでしょう。
さらに研究チームは、この漁法が双方にもたらす短期的・長期的なメリットを調べるべく、より詳しい調査を行いました。
空中からのドローン撮影、水中カメラでの撮影およびマイクでの録音を行い、漁師とイルカの漁獲量(短期的)と漁に参加するイルカと漁に参加しないイルカのコロニーの生存率(長期的)を調査。
その結果、漁師とイルカが協力することで、双方の漁獲量は大幅に増加することが判明しました。
漁師側では、イルカとの協力をしない場合に比べて、ボラの漁獲量が約4倍も高く、漁業の社会経済的な豊かさも向上しています。
そしてイルカ側では、漁に参加していないコロニーに比べて生存率が13%も高まっていたのです。
これは漁師との協力により、餌が安定して豊富に獲れることに理由がありました。
研究主任で海洋哺乳類学者のマウリシオ・カントール(Mauricio Cantor)氏は「この結果は二大捕食者の相互作用が双方にとって利益になっている珍しい例である」と述べています。
「人間と他の動物を含め、異種間の相互作用のほとんどは、利益よりもむしろ競争的になりがちです。
しかし今回の場合は、人とイルカの両方に多大な利益があることを示し、この伝統を保護し守っていく必要性を協調しています」
というのもラグナの伝統漁は現在、ボラの個体数の減少や伝統的な漁法を学ぼうとする世代の減少から衰退し始めているからです。
チームはこの文化遺産を守り抜くために、ボラ減少の原因究明や地元民と協力した伝統漁の保護・推進を進めていく予定です。