脳に刺した光ファイバーで「失望中枢」を刺激し強制敗北させる
上位マウスに強制敗北を強いるため研究者たちが着目したのは外側手綱核(LHb)と呼ばれる脳幹に近い部分に存在する領域でした。
この領域は試験に落ちたり、仕事に採用されなかったり、名前まで書いてしっかり保存していたプリンが誰かに食べられてしまったりなど、予想外のガッカリに直面した時に活性化することが知られています。
また人間を対象にしたうつ病研究でも、うつ病患者たちの多くは、この領域が異常に活性化していることが判明しており、外側手綱核(LHb)は「失望中枢(disappointment center)」とも呼ばれています。
そこで研究者たちは光をあてられた脳細胞が活性化するようにマウスたちの遺伝子を操作し、光ファイバーをマウス脳に刺しこんで「失望中枢」を強制的に活性化させてみました。
すると興味深いことに「失望中枢」を活性化させられた上位マウスたちは、上の動画のように、下位マウスに接すると自発的に後退し、逃げるようにチューブから飛び出していくことが判明。
この結果は脳に刺した光ファイバーで「失望中枢」を活性化させだけで、最上位マウスを最下位マウスに対して強制的敗北させられることを示します。
では「失望中枢」が転落をもたらすメカニズムとはどのようなものなのでしょうか?
これまでの研究によって「失望中枢」の活性化が自信や安心感に関連する脳内物質であるセロトニンの分泌をストップさせてしまうことが知られています。
また「失望中枢」と他の脳領域と相互作用を調べたところ、「失望中枢」が活性化すると意思決定や感情制御に関与する神経回路をブロックしていることが判明。
そのため研究者たちは「失望中枢の活性化は私たちの根性を弱め(意思や感情を弱め)、私たちが自分自身に向ける期待に応えることをさらに難しくしている」と結論しました。
負けるはずのない最下位マウスに上位のマウスがあっさり敗北してしまったのは、「失望中枢」の活性化によって最上位マウスから自分自身に対する自信や期待が失われてしまっていたから、というわけです。
では逆に転落してしまった上位マウスや最下位マウスの「失望中枢」を、光や薬物で強制的に抑制した場合どうなるのでしょうか?