「失った」社会的地位は回復できるが元からない場合は無理
「失望中枢」の活性化が最上位マウスに強制敗北を起こすなら、逆に抑制したらどうなるのか?
疑問を解明すべく研究者たちはマウス脳の遺伝子に別の組み換えを行い「失望中枢」を光によって抑制できるようにしてみました。
すると最下位マウスに敗北して社会的地位が転落した元最上位マウスたちは、すぐにうつ状態から脱して社会的地位を回復することが判明。
また抗うつ薬であるケタミンを投与した場合も、わずか1時間ほどで無快感および絶望状態が改善されて努力的な行動(積極性)が増えていき、24時間以内に社会的地位を部分的に回復することがわかりました。
ところが、元から最下位だったマウスは結果が異なりました。
元から最下位だったマウスの「失望中枢」の活性は最初から低レベルに抑えられており、ケタミンを投与しても地位向上につながるような努力的な行動の増加はみられませんでした。
この結果は「失望中枢」の活性化が社会的地位の急激な喪失(転落)と強く結びついていることを示しています。
つまり「失望中枢」の抑制は「失った」社会的地位を取り戻す際には役立ちますが、元から失うものがない最下位マウスにはあまり効果がなかったのです。
なお、今回の研究は「オスのマウスだけ」であり、研究者たちは「メスマウスについては異なる社会的ルールが存在しているため、今回のような実験はオスマウスでのみ機能する」と述べています。
この「失望中枢」は人間にも存在していることが知られており、以前の研究では被験者たちの脳に電極を刺しこんで抑制パルスを送ることで、うつ状態を改善できることが示されています。
人間もマウスも社会的動物であり自らの社会的地位や上下関係に非常に敏感な動物です。
冒頭で話した映画のビフのように「一回の敗北なら再戦すればいいだろう」という問題でも、実際は常勝だった人間ほど、大きな敗北に対して失望中枢が強く活性化し、再チャレンジする気力さえ奪ってしまう可能性があります。
私たちも一度の失職や仕事の失敗を、いつまでもクヨクヨ悩んで再チャレンジさえためらってしまうことがあります。
それは単に失望中枢が強く働きすぎて気力を奪っているだけであり、本当は再挑戦すればあっさり挽回できる問題なのかもしれません。
今回の研究が教訓とするものはなんですか? と尋ねられた研究者は急な社会的敗北にも耐えられるように「常に勝者であることを当然だと思い込まないようにしてください」と述べたそうです。
失敗の反動はすべてが順調に進んでいるときほど大きいですが、真の勝者に重要なのことは失敗したときどう振舞うかなのかもしれません。
タイトルおよび記事内の誤字について修正いたしました。