「脳を食べる」アメーバに対する特効薬を発見!1週間で改善
2021年の夏、米国に居住する54歳の男性が突然原因不明の発作を発し、北カリフォルニアの病院に運ばれました。
直ぐに病院はMRIをはじめとした検査を行い、結果、男性の左脳に奇妙な腫れが存在していることが判明します。
そこで医師たちは男性の病変した脳の一部と髄液を採取し、原因の分析を行いました。
すると男性の脳には「脳を食べる」アメーバとして知られるB.マンドリラリスが存在することが明らかになりました。
B.マンドリラリスは通常、土壌・ほこり・水中に潜んでおり、肺や皮膚の傷口から体内に侵入すると考えられています。
また体内への侵入後に脳に達すると脳組織を食べ始めて「肉腫性アメーバ脳炎」と呼ばれる脳炎を発症させます。
B.マンドリラリスによる脳炎は米国で過去十数年の間に109件が報告されていましたが患者が生存したケースはわずか10件のみであり、死亡率は90%を超えていました。
結果を受け医師たちは早速、生存例を参考に抗菌薬・抗真菌薬・抗寄生虫薬を組み合わせた大量の薬剤カクテルを男性に投与します。
しかし大量の薬剤は男性に激しい副作用をもたらし、血糖値と白血球数の異常な減少に加えて深刻な腎不全を引き起こし、さらに残念なことにB.マンドリラリスを駆除できず脳の病変は成長し続けました。
しかし男性を担当した医師たちは諦めず、B.マンドリラリスにかんする過去の研究結果を詳しく調べることにしました。
すると2018年に『mBio』※に掲載された研究を発見。
(※米国微生物学会が発行する査読付きオープンアクセス科学ジャーナル)
この研究ではB.マンドリラリスに対して殺菌効果がある薬剤を探すために2177種の化合物を投与する試みが行われており、結果、既存の尿路感染症の治療薬として使用されている「ニトロキソリン」と呼ばれる抗生物質が、特にB.マンドリラリスに高い効果を持つと報告されていました。
ただ研究結果は培養皿で育てられているB.マンドリラリスに対するものであり、実際の人間の脳に入り込んだ場合でも効果があるかは不明でした。
B.マンドリラリスの感染例は珍しく、感染した場合にも短期間で死亡してしまうため、臨床試験が極めて困難だったからです。
またニトロキソリンはヨーロッパでの承認は終えていましたが、アメリカ国内ではまだ承認されておらず在庫もありませんでした。
そのため医師たちは使用許可を得るための緊急の請求書をFDA(アメリカ食品医薬品局)へ提出すると共に、海外からのニトロキソリンの輸入を急ぎました。
幸い迅速な許可が行われ、上海の研究所から無償でニトロキソリンを確保することにも成功。
男性への投与が開始されました。
すると驚くべきことに、ニトロキソリンの投与から1週間後、脳内の病変部分が縮小を開始し、男性の容体は急速に改善していきました。
現在、男性は退院して自宅で生活できるまで回復しているとのこと。
さらについ最近、B.マンドリラリスに感染した別の患者にもニトロキソリンを使った治療が進行中であり、有望な結果が得られていることがわかりました。
研究にかかわった医師たちは最後に「研究結果が世界中のB.マンドリラリスに感染した患者たちの命を救うことを望んでいる」と述べました。