指紋がどのように形成されるかをついに解明!
指紋は3つの化合物の配合によって決まる
公的な指紋採取がはじまったのは、1897年のインドだったとされています。
その頃には既に指紋が個人識別の有用な手段であることが判明しており、インドではじまった指紋採取の目的も、犯罪記録の管理にありました。
その後、遺伝学の進歩によって、指紋の代表的な3種類「渦巻き、ループ、アーチ」のどれになるかが、四肢発生の遺伝子の影響を受けていることがわかってきました。
しかし、指紋の凸凹パターンがいったいどんな化学信号で形成されるかの多くは謎に包まれていました。
そこで今回エディンバラ大学の研究者たちは、”指紋の形成途中にある”中絶されたヒト胚から指先部分の組織を回収し、どんな遺伝子が働いていたかを網羅的に調べてみました。
するとWNT・BMP・EDARという3つの遺伝子が活性化していたことが判明します。
次に研究者たちは同じ3つの遺伝子がマウスの足裏でどのように働いているかを調べました。
マウスの足裏には人間のような指紋はありませんが、上の図のように、グリップ力を増すための単純な凸凹構造が存在しています。
研究者たちが3つの遺伝子を削除したり活性化して作用を確かめたところ、WNTには凸部分の形成を促進する一方で、BMPには逆に凸部分の形成を抑制する作用があると判明。
(※WNTを削除するとマウスの足裏では全くしま模様が形成されなくなりました)
またEDARには凸部分の幅を決める役割があり、EDARを削除してしまうとマウスの足裏はしま模様ではなく水玉模様の突起を持つように変化しました。
研究では3つの因子の強さを自在に調節することで、マウスの足裏の模様を望んだ形に変化させられることを示しています。
以上の結果から研究者たちは、人間の指紋もマウスの足裏と同様に、3つの異なる化合物によって伝達される信号が連携して形成されると結論しました。
指紋とヒョウ柄は同じ仕組みで模様が決まる
WNTとBMPのような相反する化学信号は、チューリングパターンと呼ばれる、自発的に生じる空間パターンをうみだす要素の1つであり、さまざまな重なり合う化学信号が複雑な模様をうみだします。
チューリングパターンは自然界には広く存在しており、キリンやヒョウの柄など動物の規則的な毛皮の模様や、熱帯魚の皮膚のようなシマシマ模様や斑点模様を生成することが可能にします。
動物の毛皮の模様や熱帯魚の皮膚の模様も、指紋と同様に同じものは2つとありません。
そのため研究者たちは、人間の指紋も動物の毛皮模様や熱帯魚の皮膚模様のように、チューリングパターンに従って形成されている可能性があると述べています。
一卵性の双子でも指紋が異なるのは、遺伝子が同じでも、化学信号の波が指全体に広がっていく物理的な経緯が微妙に異なるからだと言えるでしょう。
指紋の開始地点は3つある
一方、今回の研究では指紋の開始地点も明らかになりました。
指紋の開始地点は最大3カ所であり、上の図のように、1つ目は指の腹の中央部分、2つ目は爪の下側、3つ目は第一関節部分となっています。
指紋はそれぞれの部分から、図の矢印の方向に向けて徐々に作られていきます。
研究者たちが指紋の形成過程をシミュレートしたところ、指紋の代表的な3パターンのどれになるかは、指の形状と開始地点から発生する波の優勢度に依存していることが判明。
たとえば、爪の下側と第一関節部分からの波の広がりが早い場合には指紋はアーチ状になり、中央部分からの波が優勢で指の形が対称ならば渦巻き状、指の形の非対称性が強い場合にはループ状になりやすいことがわかりました。
さらに今回の研究では同じWNT・BMP・EDARの3つの信号が毛が生えてくる毛包を作るためにも使われていることを発見しました。
手のひらの毛包形成は早期にストップしてしまうために手のひらや指先部分に毛がはえることはありません。
しかしこのことは、毛や汗腺や指紋など皮膚の全く異なる仕組みや構造が、同じ信号に引率されている似た仕組みを使って形成されることを示しています。
研究者たちは今後、解明された仕組みを操作する薬品などを開発していくとのこと。
皮膚の仕組みや構造を理解することは化粧品開発だけでなく、先天性の皮膚異常などを治療するのにも役立つでしょう。
もし指紋形成の仕組みを上手く操作できるようになれば、指紋の形状を自分の望み通りに変更できるようになるかもしれませんね。