水滴を「融合させず」水面上で90分間もバウンドさせることに成功!
同じ物体を何度も空中に跳ね上げるジャグリングは通常、固体を用いて行います。
中華鍋の中のスープなど、投げる側が固体(鍋)で投げられる側が液体(スープ)の場合でも、工夫次第で液体を繰り返し放り投げることができます。
では投げる側も投げられる側も同種の液体(水)の場合はどうでしょうか?
水滴と水面が完全に分離した状態を保ったまま、水面を揺らしつつ水滴を何度も放り投げるようなことが可能なのでしょうか?
チリ大学の研究者たちは以前から、水面が揺れたときに発生する波のパターンについて研究してきました。
しかしある日、水面にソリトンという特殊な形状の波を起こして調査を行っていると、波の上に垂らした水滴が、上の動画のように、何度も上下にポヨンポヨンと連続して跳ねまわることを偶然発見しました。
ソリトンは山と谷がある普通の波ではなく、上の図のように、単一の起伏によって構成されている波です。
これまでの研究により、上の動画のように、比較的平面であるシリコンオイルの上を、同じシリコンオイルの滴が転がるようにして移動する「ウォーカー」と呼ばれる現象が起こることが知られていました。
ですが水を使った水のジャグリングをどうやって起こすかは、多くが謎に包まれていました。
そこで今回チリ大学の研究者たちは何が起きているかを探るために、新たな研究を開始します。
調査にあたってはまず長さ20cm幅2.6cmの水槽に染料と表面張力低減剤を混ぜた水を注いだ水槽を特定の周波数帯で振動させ、上の図のような、ソリトン波を発生させました。
このとき発生したソリトン波は長い辺の一方に隆起が現われ、もう一方の長い辺には沈降が交互に生じました。
次に研究者たちは同じ水をさまざまな条件(水滴の大きさやタイミング)で水槽の中央部に滴下し、最もジャグリングが長続きする条件を探しました。
すると最も成功したケースでは、水滴は最大90分間にわたり、数千回のバウンドを繰り返すことが判明します。
また長くジャグリングさせるための条件を探索したところ、水滴と水面の間の薄い空気の層が重要であることが判明。
水滴がある程度まで高くジャンプしないと空気の層が失われて水面と融合してしまい、水滴があまりにも高くジャンプしてしまっても落下が激しくなって空気層が壊れて融合してしまいました。
また水滴を落とすタイミングも重要であることがわかりました。
交互に隆起と沈降を繰り返すソリトン波はジャグリングを行う右手と左手のような存在であり、適切なタイミングで滴下しないとジャグリングが起こってくれませんでした。
さらにより安定したジャグリングを行うには、水滴の大きさや滴下のタイミングを調整して、水滴の形状変更がソリトン波の動きと同期しやすくさせることが重要となっていました。
しかしそうなると気になるのは、この現象の根本にある原理です。
長時間のジャグリングに必要な条件がわかっても、原理が不明のままならばスッキリしません。
いったいなぜ水滴と水面を独立させたまま何度も放り投げるという奇妙な現象が起こるのでしょうか?
研究者によれば、根底にあるのは光ピンセットと同じように、波のエネルギーを使った物体の固定にあるとのこと。
光ピンセットでは収束したレーザーの焦点の近くに、光の波の圧力によって微粒子を押し込んで動かないように保持します。
同じように隆起と沈降を交互に繰り返す左右のソリトン波は水滴を左右の波の間に存在する底より僅かに高い位置に固定しようとする作用が働いていると考えられます。
より直感的には、テニスボールを左右の手のひらの底(掌底)で繰り返し上に打ち上げているイメージに近いものとなるでしょう。
左右の波が適切な波長で水滴を打ち上げている場合、水滴は水面と融合せずに延々と打ち上げられ続けるのです。
ただこの説明も実は完ぺきとは言えません。
水滴と水波の関係は量子力学の粒子と波の関係を巨視的なレベルで模倣している可能性があるからです。
この場合、水滴は素粒子の粒子としての性質を示し、波打つ水面は波としての性質を現わします。そしてその相互作用が水滴の動きを支配していることになるのです。
そのため今回の奇妙な水滴の挙動は、量子世界の奇妙な現象が日常世界に顔を出した結果とも解釈することもできます。
単なる水滴と水面の関係が奇妙な量子力学世界に通じていると考えるのは、非常にワクワクさせるものです。
研究者たちはこの仕組みを利用することで、光ピンセットが取り扱うよりも大きな粒子を保持する方法が開発できると述べています。