アイマスクで睡眠の質を高める「徐波睡眠」の時間が増えていた
良質な睡眠は心身を健康に働かせるために欠かせないものです。
睡眠時間が短すぎたり、質が悪いと、日常生活における記憶力や注意力が低下する恐れがあります。
また過去の研究では、良質な睡眠を妨げる要因の一つに「周囲の明るさ」があることも明らかになっていました。
入眠と覚醒のサイクルは、日光の変化にともなう明暗のサイクルと同期しており、夜の暗闇は入眠の、朝の日光は覚醒の合図となります。
それから睡眠に影響する明かりは太陽光だけではありません。
屋外の街灯や室内の電子機器のライトも網膜に届き、睡眠の質を下げる可能性があるのです。
特に都会化の進む現代では、夜間でも灯りが煌々と照っている場所が多くなったり、枕元のスマホが定期的に明るくなったりと、良質な睡眠が妨害されやすい状況にあります。
すでに室内にも光源は蔓延していますから、シャッターや遮光カーテンを閉めるだけでは問題の解決になりません。
そこで研究チームはアイマスクの着用がもたらす効果を調べることにしました。
実験では、アイマスクが認知機能に与える影響を探るべく、18歳〜35歳の被験者89人を対象に2週間にわたる睡眠調査を実施。
まず最初の1週間で、被験者には自宅でアイマスクをした状態で5日間寝てもらい、その後の2日間で認知テストに参加。
残りの1週間はアイマスクなしで5日間寝てもらい、同じように2日間の認知テストを受けてもらいました。
その結果、アイマスクをしたときの方が「エピソード記憶の符号化(記憶を定着させること)」に関するスコアが高くなることが分かったのです。
エピソード記憶とは、個人にまつわる出来事の記憶で、たとえば「昨日は何を着て、どこに行き、何を食べたか」など、自分の経験に関する記憶を指します。
(反対に、誰でも知っている知識や情報を「意味記憶」と呼び、「1年は365日」「日本の首都は東京」などがそれに当たります)
加えて、行動上の注意深さと持続的な注意力を測定する「精神運動覚醒検査(Psychomotor Vigilance Test:PVT)」でも反応が速く、スコアが高くなっていました。
この結果から、アイマスクの着用は着用しない場合に比べて、エピソード記憶の符号化と翌日の覚醒度がより高まることが示唆されています。
ちなみに、調査期間中に被験者につけてもらった睡眠日誌では、睡眠時間と質の自己評価において、アイマスク着用時と未着用時とで評価に差はなかったとのこと。
ただ、その差は記憶力や注意力には反映されていたのです。
それから追加実験で、被験者の脳波を測定しながら同様の調査をしたところ、アイマスクの着用時に「徐波睡眠」の時間が長くなっていることが分かりました。
徐波睡眠とは、深い眠りを指す「ノンレム睡眠」のうち、出現する脳波の周波数が低い時間帯を指します。
このとき、脳の大部分は休止状態にあり、脳や体の疲労回復・細胞の入れ替えを行う成長ホルモンが最も多く分泌される時間帯です。
一晩の中で徐波睡眠をしっかり長く取ることが睡眠の質を高める鍵でもあります。
つまり、アイマスクの着用による記憶力と注意力の向上は、徐波睡眠の時間が延びたことに理由があるのかもしれません。
私たちの日常生活では、たとえば自動車の運転など、注意深く迅速に判断することが求められるシーンが多々あります。
研究主任のヴィヴィアナ・グレコ(Viviana Greco)氏が「アイマスクを着用して寝ることで認知パフォーマンスを改善し、利益を得るための効果的で安価な解決策になり得る」と語りました。
アイマスクの着用ならお金をかけずにすぐにも実行できそうです。
中には部屋の電気は付けたままでないと寝られないという人もいるかもしれません。
しかし、脳をしっかり休めるためには暗闇は非常に重要なようです。
部屋に明かりの多い方は今日からアイマスクの睡眠を実践してみるのも良いかもしれません。