レモン汁から結石を予防する「ナノ粒子」を新たに発見
結石は先述したように、尿中のカルシウム成分(主にシュウ酸カルシウム)が結晶化して塊となったものです。
それが現れる位置によって「腎結石」「尿管結石」「膀胱結石」などと呼び名が変わります。
男性は7人に1人、女性は15人に1人が一生に一度はかかるとされる珍しくない疾患です。
腎臓でできた結石は、尿の通り道である腎盂(じんう)から尿管、膀胱の順に下降していきます。
このとき、結石が細い尿路に詰まって尿の通り道をふさぐと、とてつもない激痛が生じ、下降に従って痛みも移動します。
結石は尿路の組織を傷付けながら下降するため、血尿を伴うことが多いです。
また、しばしば発熱や吐き気、嘔吐感も併発します。
その後、うまく膀胱まで到達した結石は尿と一緒に体外へと排出されていきます。
しかし、結石のすべてが尿として出て行けるほど小さいものではありません。
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の泌尿器科医であるトーマス・チー(Thomas Chi)氏は「結石を治療できる薬もありますが、多くの人は結局、結石を取り除くために手術が必要になる」と話し、「過去に拳大の結石を手術で取り除いたことがある」と述べています。
だからこそ、結石は予防が重要なのです。
結石ができる原因は体質や生活習慣によって様々ですが、主には「シュウ酸の摂取過多」が挙げられます。
そのため、予防にはシュウ酸を多く含む食材、たとえば、ホウレンソウ・タケノコ・レタス・ナス・ブロッコリー・コーヒー・紅茶・緑茶・チョコレートなどの摂取量を抑えるのがベストです。
またシュウ酸を多く含む食材でも、一緒にカルシウムを含む食品を食べれば、腸内のシュウ酸とカルシウムが一緒になって便として排出されるので、尿中にシュウ酸が溜まりにくくなります。
それから、水分をこまめに摂って尿の濃度を薄くすることも有効でしょう。
そしてもう一つ、結石の予防効果があるとされているのが「レモン」です。
特にレモンの酸味の元であるクエン酸が、尿中におけるシュウ酸とカルシウムの結合を防ぐことで、結石の形成が抑制されると言われています。
しかし一方で、本研究主任のチャオ・ホンジー(Qiao Hongzhi)氏は「レモン汁を飲むのは患者にとって楽なことではない」と話します。
2022年の臨床試験では、結石患者が再発の予防に必要な1日120ml(約半カップ)のレモン汁を飲み干すのが困難であることが示されました。
加えて、レモン汁を多量に摂取すると、酸度が強すぎて歯に悪影響が出るケースが見られたのです。
そこでチームは、結石の予防効果を持ちながら、口当たりもよい他のレモン由来の成分を探すことに。
すると、レモン汁から単離された細胞外小胞(EV)によく似た袋状のナノ粒子「LEVNs」が、腸から腎臓に移動し、腎結石の形成を阻害する作用を持つことが判明したのです。
(※ 細胞外小胞:ほぼすべての細胞が分泌する袋状の物質で、細胞間のコミュニケーションを媒介し、免疫応答や血液凝固などのプロセスに関わる)
LEVNsには、脂肪やタンパク質、DNAなどの分子が詰まっており、レモン汁の他に高麗人参やグレープフルーツ、タンポポにも含まれることが特定されています。
チームはナノ粒子の効果を検証すべく、腎結石の成長を促す物質を摂取させたラットにLEVNsを経口投与しました。
その結果、LEVNsが尿中のシュウ酸の結晶化を安定性の低い状態に移行させることで、結石の形成を抑制できることが示されたのです。
さらに、LEVNsは結石を軟化させるとともに、肥大化の原因となる粘着性を低下させられることも明らかになりました。
今回の結果は、結石の新たな予防・治療法を確立する上で重要な知見です。
この小さな袋状粒子が私たちヒトにも同じ効果をもたらすとすれば、「レモン汁の直飲み」という苦行をしなくて済むようになるかもしれません。
ホンジー氏は次のステップとして、人体での臨床試験に向けた準備を進めていきたいと述べています。