素粒子「ミューオン」を検出することでピラミッド内部を可視化
私たちの目には見えませんが、宇宙線は常に地球へと降り注いでおり、その一つとして素粒子「ミューオン」(μ粒子)があります。
ミューオンはどんな厚い物質でもスルリと通り抜けられる性質を持つ素粒子の一種です。
チームはこれに注目し、原子核乾板という写真フィルム型の素粒子検出器を用いてミューオンを観測し、ピラミッドを傷つけることなく内部イメージの可視化を行いました。
これが「宇宙線イメージング」と呼ばれる観測技術で、研究者いわく「X線を使ったレントゲン撮影に近い」といいます。
チームは2015年から、エジプト・カイロ大学およびフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と協力し、ピラミッドの宇宙線イメージングを開始しました。
その中で2016年に、シェブロンの背後に南北に伸びた通路状の「未知の空間」を発見し、さらに2017年には、大回廊の上部に何らかの巨大空間を発見しています。
いずれの空間もピラミッドの外から繋がる通路は見当たらず、今もなお、4500年前の構造をそのまま留めていると考えられます。
チームは2016年に見つかったシェブロン背後の「未知の空間」をターゲットに、その位置や詳しい形状を明らかにすべく、2019年に宇宙線イメージングを実施。
さらにここでは、ミューオンを検出する原子核乾板のメリット(電源不要、軽量、コンパクト)を活かして、下降通路の4カ所に6つ、アルマムーンの通路の3カ所に4つの検出器をセットする「多地点宇宙線イメージング」を行いました。
特に、下降通路からは未知の空間の断面形状を、アルマムーンの通路からは傾きや長さを高い精度で検出しています。
そして今回、集めたデータを解析してシャブロン背後に隠された未知の空間の詳細を明らかにしたのです。
調査結果では、未知の空間はシェブロンの表面から80センチ後ろに位置し、幅2メートル・高さ2メートル・奥行9メートルほどのサイズであることが特定されました。
また未知の空間は水平構造であることも判明しました。
位置と形状を特定する精度は数センチ単位であり、極めて高い精度でのイメージングに成功しています。
今回の結果について、チームは「私たちの知る限り、宇宙線ミューオンにより検出した空間構造について、位置と形を数センチの精度で決定できた成果は今回が初めてです」と話します。
この知見は、空間を作った理由やその役割、さらには2017年に見つかったもう一つの巨大空間との関係性についての考察を深め、クフ王のピラミッドにまつわる謎の解明に大いに貢献すると期待されています。
よく宇宙のパワーと結び付けられるピラミッドの秘密を、宇宙から降り注ぐ粒子を使って特定するというのはロマンに溢れています。