2本の炎の位置調整で「炎のゆらぎ」を停止できると判明!
誕生日ケーキや仏壇のロウソクや、キッチンにあるガスコンロから吹き出る炎など、私たちの身近に存在している炎は、常に揺れています。
このゆらぎは主に、炎に向けて流れ込む周囲の空気やガスの流れが原因でとなっています。
またこれまでの研究により、複数の炎が互いに十分い近い場合、上に向けた空気やガスの流れが相互作用して、炎のゆらぎに一定のパターンがうまれることが知られていました。
たとえば2本のガスバーナーから出る2つの炎が十分に遠いとき、(当然ながら)両者の動きにはなんら関係がありません。
しかし相互作用が開始する距離まで近づくと、上の図のように、2つの炎が互いに大きくなったり小さくなったりを繰り返す「逆位相」と呼ばれるパターンが出現します。
上の図では右側の炎が大きくなっていますが、次の瞬間には左側の炎のほうが大きくなり、また次の瞬間には再び右側の炎が大きくなります。
さらに炎が一定の距離(臨界距離)より近くなると、上の図のように、2つの炎の動きが同期して同じように揺れ動く「同位相」と呼ばれるパターンに変化していきます。
この状態になると2つの炎は横から見ると、鏡合わせせのような動きをとりはじめます。
しかし最も興味深い現象は、2つの状態の中間(臨界距離)で発生していました。
同位相から逆位相(あるいはその逆)への変化が起こると、2つの炎が僅かな間だけ、ゆらぎがない状態を形成します。
具体的には上の図のように、同位相➔ゆらぎナシ➔逆位相(あるいは逆位相➔ゆらぎナシ➔同位相)のように、ゆらぎナシの状態が変化に遅延を起こしていたのです。
そのため、もし何らかの方法で遅延を延長させることができれば、ゆらぎのない炎をより長く保てる可能性がありました。
そこで今回、豊橋技術科学大学の中村裕二教授らの研究チームは、2本の炎のうちの一本をレールの上に配置して、変化を起こす臨界距離を挟んで小刻みに左右に動くようにしてみました。
すると、中間状態が大幅に延長され、最大0.84秒に渡り、2つの炎をゆらぎナシの状態にすることに成功します。
これまで炎のゆらぎにかんする多くの研究が行われてきましたが、炎同士の距離を絶え間なく動かしてゆらぎナシの状態を維持したのは、今回の研究がはじめてとなります。
中村教授はプレスリリースにて「この現象を学会で紹介すると例外なく聴講者の興味を鷲掴みにできるものの、応用例については特に考えていない」と述べています。
また今回の研究結果を伝えることで「日本ではこんな(役立たない)基礎研究が存分にできるのだ、ということを世界に向けて発信していきたい」と結びました。
ただ研究者は冗談めかしてそのような言い方をしていますが、実際は今回の研究成果がいくつかの分野で重要な役割を果たすと考えられます。
たとえば、炎と炎の相互作用を理解することはエンジンなどにとって重要となります。
ガスコンロなどで炎のゆらぎから発生する音は「ボボボー」と控えめなものでしかありませんが、ガスタービンエンジンやロケットエンジンで起こる炎の音響ノイズは、しばしばエンジンそのものを破壊するほどの威力を発揮します。
もしゆらぎのない炎をエンジンで作り出すことができれば、エンジン効率を上昇させることも可能かもしれません。
さらに炎で得た洞察を電子や光など他の物理現象に応用することで、さまざまな分野でノイズを抑制できるようになるかもしれません。
そういう意味では、直ぐに役に立たない基礎研究こそ、最も世界を変え力がある研究だと言えるでしょう。