「タマネギを切るときの痛み」に似ている
ヤドクガエルでは皮膚に触れるだけで危険ですが、2種の毒鳥では人を死に至らしめるほどの効力はありません。
ただし皮膚や羽毛を触りすぎると、手にかゆみや火傷のような刺激を受けるといいます。
それからボダワッタ氏いわく「羽毛を目の近くで扱っていると、タマネギを切っているときのように涙や鼻水が出てくる」のだそう。
このように毒性があまり強くないので、ヤドクガエルと同じく「毒が天敵への防御に役立っている」とは考えづらいです。
しかし同じニューギニア島に生息し、羽毛にバトラコトキシンを備える毒鳥の「ピトフーイ (Pitohui)」に関する先行研究では、「ノミやダニなどの羽に寄生する虫に対して効果があり、他の鳥と違って寄生虫からの被害を受けにくい」と指摘されています。
また地元住民によると、これらの毒鳥の肉は辛味のような刺激があって、舌がピリピリするので食べたがらないという。
そういう意味でも、毒が生存に役立っているのかもしれません。
バトラコトキシンは「毒虫」から頂いている
毒を持つ生物には2つのタイプがいます。
1つは自ら体内で毒を生産できるタイプで、もう1つは食べたものから毒を獲得するタイプです。
ヤドクガエルやフグ、そして毒鳥は後者に属します。
ピトフーイの胃袋を調べた研究では、中にバトラコトキシンを生産することで知られる甲虫類(Choresine)が見つかりました。
さらに人工的な環境で飼育したピトフーイでは毒をまったく持たないことが明らかになっています。
よって毒鳥は食べた昆虫から毒を頂戴して、自らの体内に溜め込んでいるようです。
今回の2種も同じルートで毒を得ていると考えられますが、その正確な供給源はまだ特定されていません。
なぜ毒を持っていても平気なのか?
では、毒鳥たちは甲虫から頂いた毒を体内に蓄積しても平気なのはなぜでしょうか。
チームが遺伝子解析をしたところ、毒鳥にはナトリウムチャネルを制御する領域に遺伝的な変異があり、それが毒素に耐える能力を与えていることが分かりました。
これはヤドクガエルと同じ仕組みです。
ただし、その遺伝子変異はヤドクガエルとまったく同じ場所にはなく、別々の仕方で同じような毒への耐性と運搬能力を獲得したと見られます。
いわゆる「収斂進化」の一例です。
収斂進化とは、種の異なる生き物が別々の場所で同じ形質を進化させる現象で、有名な例としては「モグラとケラの前足」が挙げられます。
ケラは昆虫であり、モグラは言わずとしれた哺乳類ですがどちらも土中を掘り進む生活をします。
両者はまるで違う生き物ですが、似た環境で似たような生活を送るため、その手を観察してみると筋肉質で鋭く長い爪があり、運動のための力学的な構造がよく似ています。
このような環境に適応する方法が似たことで、似た進化を起こすものが収斂進化です。
新たに見つかった2種の毒鳥がどのように毒を活用しているかは不明ですが、ニューギニアの危険なジャングルの中ではきっと有効な使い方があるのでしょう。
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