世界で最も深い海で生きる魚が日本で発見される
「世界で最も深い海で生きる魚」の映像記録が残っているのは、2017年の日本のものでした。
その場所は、日本の南に位置する地球上で最も深い海底凹地であるマリアナ海溝(最深部は水深1万983m)でした。
マリアナ海溝の水深8178mで、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が設置した観測装置が、半透明なオタマジャクシのような魚の姿を捉えたのです。
この魚は、クサウオ科シンカイクサウオ(学名:Pseudoliparis amblystomopsis)の仲間だと考えられており、「マリアナスネイルフィッシュ」と呼ばれています。
クサウオ科(スネイルフィッシュとも呼ばれる)は300種以上に分かれており、ごく浅い沿岸から水深8000mを超える深海に至るまで、幅広い分布域を持っているのが特徴です。
そして深海では、シンカイクサウオを含む数種がこれまでに発見されてきました。
しかも当時、魚が生きられる限界の水深は8200mだと考えられていたため、このマリアナスネイルフィッシュは、まさに「世界で最も深い海で生きる魚」だと言えました。
ところが最近になって、その限界を打ち破る映像記録が、ジェイミソン氏ら研究チームによって取得されました。
— Alan Jamieson (@Hadalbloke) April 3, 2023
彼らは、「世界で最も深い海で生きる魚」の個体数に関する10年間の研究の一環として、2022年9月から2カ月にわたって日本周辺の海溝を調査してきました。
日本の周辺には深い海溝が集まっており、このミッションでは日本海溝(8000m)、伊豆・小笠原海溝(9300m)、琉球海溝(7300m)を調査したようです。
そして新しい発見があったのは、伊豆・小笠原海溝の最深部にエサ付きカメラを設置した時でした。
なんと水深8336mで、クサウオ科Pseudoliparis属(シンカイクサウオの仲間)の未知の種が発見されたのです。
魚が生きられる8200mを超える水深で、新たな魚が見つかったのです。
彼らは、まるでエベレスト(8848m)が逆さになったような驚異的な深さで、元気に泳いでいました。
しかも水深8000mでは、海面の800倍の圧力が加わります。
「世界で最も深い海で生きる魚」が持つゼラチン状の体は、彼らがこの過酷な環境で生きるのを助けているようです。
また、他の多くの魚が持っている浮き袋のような器官(ガスが含まれる)が無いことも、深海での利点となっています。
記録された映像では、彼らがエサに群がっている様子を確認できます。
今回、マリアナ海溝以上の記録が得られたことに関して、研究チームは「おそらく伊豆・小笠原海溝の方がわずかに温かいからだろう」と推測しています。
また同プロジェクトは、日本海溝でも、水深8022mでクサウオ科Pseudoliparis属の一種「チヒロクサウオ(学名:Pseudoliparis belyaevi)」を2匹発見しています。
この種は既知の種ですが、8000mを超える深さで発見されたのは今回が初めてです。
「世界で最も深い海で生きる魚」は、私たちが想像する以上にたくさん生息しているのかもしれません。
そして特殊な体を持つ彼らにとっては、暗くて深い海の「どん底」さえ快適に感じられるのでしょう。
Scientists film deepest observation of fish at extraordinary ocean depth.
Species of genus Pseudoliparis filmed swimming at 8,336m by an autonomous “lander” dropped into the Izu-Ogasawara Trench south of Japan.
Lead scientist: the snailfish cld be at maximum depth for survival. pic.twitter.com/w1BJn7ODcq— Rita Rosenfeld (@rheytah) April 1, 2023