経済格差が「命の不平等」を生んでいる
これまでの研究で、経済格差が災害時の命を守る行動にも不平等をもたらすことが示されています。
まず、国の経済格差が大きいということは、富が一部の少数者に集中しているせいで、人口の大部分が貧困状態にあることを意味します。
こうした人々は災害時に必要な物資の調達が難しく、車やその他の移動手段も限られているため、避難に間に合わないケースが多々あります。
それから、貧困層の住宅は災害に対して脆弱である一方で、富のある者の住宅は頑丈であったり、元から洪水の被害を受けにくい立地に建てられることが常です。
結果、災害時の物資や移動サービス、洪水防止インフラが高所得層に集中し、低所得層は取り残されてしまうため、より多くの人が被害を受けやすくなるのです。
チームはその具体例として、2005年に大型ハリケーン・カトリーナに襲われた米南部ルイジアナ州・ニューオーリンズの被害を挙げています。
当時、ハリケーンによって堤防が決壊した後、最も深刻な洪水被害は低所得者層の暮らす地域で発生しました。
これらの地域の人々は交通手段へのアクセスが限られていたため、避難が間に合わず、多くの人がそのまま命を落とすことになったのです。
また低所得層の大部分が移動式住宅など、洪水に対して非常に脆弱な家に住んでいました。
加えて、これらの地域は市の工業地帯に近かったため、洪水後に深刻な大気汚染に見舞われたといいます。
これは経済的な格差がいかに”命の不平等”までをも生み出してしまうかの一例です。
さらにリンダーソン氏は、近年の気候変動により極端な降雨パターンが起きやすくなると予想される中で、低所得層の被害がこれまで以上に拡大する可能性を懸念しています。
「世界の多くの国々で経済資源の不均等な分配がますます進んでいることは、当局や政府だけでなく、研究者の間でも災害リスク軽減のためにもっと注目されるべきでしょう」
日本においても、潜在的に災害のリスクが高い地域は安く住めるという問題は存在するでしょう。
これまで、リスクはあっても実際に洪水などの災害が発生することは稀だった地域も、気候変動による極端な降雨パターンで被害が発生することは増えるかもしれません。
今後、こうした問題はよりはっきりと顕在化する恐れもあるため注意が必要でしょう。