蓄電装置の不足が無駄な電力を生み出している
現在の発電システムにおける最大の問題は、作った電気を溜められないことにあります。
発電所で作られた電気は家庭や工場に直行してすぐに使われるため、常に発電量は使用量に対して余裕をもっていなければなりません。
また太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの最大の弱点は発電能力の不安定性にあるとされています。
もし日差しが強いときや風が強いときに作った大量の電力を蓄えることができれば、弱点を補えるでしょう。
ただ現状では大容量の蓄電器の開発は遅れており、使われなかった余剰電力は無駄になってしまいます。
ですが今回のMITの研究により、すべてが変わるかもしれません。
新たな研究では大量生産されているセメントを蓄電装置「キャパシタ」の一部として使用します。
そもそも電池やバッテリーがあるのに、なぜ世の中には発電所で作った電気をためておくシステムがほとんどないのでしょか?
これは蓄電装置(キャパシタ)と電池の電気の溜め方の違いに理由があります。
電池やバッテリーは化学変化を利用して電気を溜めています。物質自体を変化させながら電気を溜めるため、これはある程度利用すると、どんどん劣化してしまいます。
そのため、スマホなどのバッテリーは定期的に交換しなければなりません。このことでかなり煩わしい思いをしている人も多いでしょう。
そのため、バッテリーを社会的なインフラに利用することは困難です。
そこで、長期間運用で利用される蓄電装置がキャパシタです。
これは簡単に言えば静電気を利用した蓄電方法です。
下敷きを擦ったりすると表面にマイナスの電荷が溜まって、それが静電気になるという説明を聞いたことがあるでしょう。
キャパシタは、これと同じように、絶縁体を挟んだ2つの導体(電極)に電荷を溜めていくシステムです。
電極の間に絶縁体を挟むと、片方の電極から吸われた電子がどんどんもう片方の電極に溜まっていきます。
この状態でスイッチを開くと、電極に電子が溜まった状態で保持されます。その後、この回路を再び閉じると、今度は溜まった電子が流れ出して電気を放出することになるのです。
これは非常に単純な仕組みのため、材料が劣化するなどの問題は起きづらいので長期間安定して運用することが可能です。
ただ、このキャパシタにおける問題は、電子を大量に付着させるために導体(電極)の表面積に蓄電量が依存されてしまうということです。
これを社会的なインフラで利用しようとすると、とてつもなく巨大な導体が必要になってしまいます。
コンデンサという電子部品は、この原理で電荷を溜めておく部品ですが、筒のような形をしている理由は、表面積を増やすために内部で導体の膜を丸めて簀巻きのように格納しているためです。
しかしもし、高層ビルや高速道路のようなサイズのキャパシタを作ることができれば、ほぼ無尽蔵の電力を蓄積できます。
ただ現状、そこまで大きな電極を作る技術はありませんでした。
しかし今回MITの研究者たちは視点を変え、電極を大きくするのではなく、大きいものに電極の要素を取り込ませる方法を考えることにしました。
そこで着目されたのがセメントです。