「蓄電セメント」はビルや道路を無限の電池に変えられる
セメントは強固な建材としての機能を持っており、しかも絶縁体です。
もしこのセメントの中に上手く導体を埋め込むことができれば、ビルや道路が全てキャパシタになり、非常に巨大な蓄電が可能になります。
そこで今回の研究者たちは、セメントにカーボンブラックを混ぜることでセメント内部にキャパシタの構造を生み出せないかと考えたのです。
カーボンブラックは炭素からなる微細な黒色の粒子で、古くは文字を書くためのインクとして使われており、死海文書もカーボンブラックを用いて書かれていることが知られています。
またカーボンブラックは極めて安価で伝導性も優れています。
作業の第1段階では、このカーボンブラックをセメント粉末と混合し、水を加えます。
全体に占めるカーボンブラックの容量は3%ほどとしました。
するとセメントと水が次第に凝集し、私たちのよく知るセメントに変化しはじめます。
一方、カーボンブラックの粒子は水をはじくため、セメントが固まるにつれて内部で凝集しネットワーク状の構造を形成します。
そして最終的には強固な建材としての特性を持つセメント内部に、広い表面積を持つ炭素制の電極が形成されます。
つまり建材として使えるブロックの中に、デフォルトで電極が配置されている状態になるのです。
マインクラフトなど建設要素のあるゲームをしたことがある人ならば、セメントのブロック中に蓄電用の電極が入っているものを想像するとわかりやすいかもしれません。
この絶縁体であるセメントの中に炭素の電極が埋め込まれたブロックはビルや道路を組み立てる部品になると同時に、内部の炭素ネットワークに電子を溜め込むキャパシタとしても機能します。
こうして、このセメントで組み上げたビルや道路はそのまま巨大な蓄電装置になるのです。
次に研究者たちは、この炭素入りセメント電極を厚さ1ミリメートル、幅1センチメートル、というボタンほどの大きさに加工し、LEDと繋げてみたところ、見事ライトを点灯させることに成功しました。
炭素入りセメントがキャパシタとして機能し、電気を供給できることが示されました。
研究者たちは「この方法は規模拡大が容易であり、将来建設されるビルや道路などを巨大蓄電器にすることができる」と述べています。
またセメントとカーボンブラックと電解質などからなるキャパシタはリチウムイオンバッテリーなどと比べて遥かに安価であり、発展途上国など電力が不足している地域での活用が期待できる、とのこと。
また研究では炭素入りセメントブロックを建材として実際に使った場合、どれほどの電力が蓄えられるかも調べられています。
計算によれば、標準的な一軒家の基部に設置される45立方メートルのセメント基部を全てキャパシターに変更したとすると、平均的な家庭の1日分の消費電力(10キロワット)を蓄えられることがわかりました。
同じようにビルや道路の建設に使われるセメントを全て炭素入りの蓄電セメントにすることができれば、あらゆる建築物が蓄電器として機能し、走行中の電気自動車に電気を送ることもできるでしょう。
ただこの方法は、建材としてのセメントに異物であるカーボンブラックを混ぜています。
そのため、蓄電容量を拡張するためにカーボンブラックの比率を上げると強度に問題を起こす可能性があります。
今回の研究ではカーボンブラックを入れた場合のセメント強度についても調べられています。
結果、建材としての強度をあまり損なうことなく、混ぜられるカーボンブラックの量は最大10%であることがわかりました。
研究者たちは現在、自動車バッテリーの出力に匹敵する12ボルトのセメント電極キャパシタの作成に取り組んでいるとのことです。