身体で「音のない重低音」聴く技術を開発
身体で「音のない重低音」聴く技術を開発 / Credit:身体で”聴く”静音型ウェアラブル音響で「音のない重低音」体験を実現!
technology

身体で「音のない重低音」聴く技術を開発

2025.08.11 21:50:04 Monday

日本の筑波大学(University of Tsukuba)で行われた研究によって、音を一切漏らさずにライブ会場さながらの“腹にズンと来る”重低音を再現する新技術「EMSサイレント・重低音専用スピーカー」が開発されました。

従来の重低音専用スピーカーといえば大音量で家全体を揺らすもので、迫力はあっても近所迷惑や防音コストの問題が避けられません。

しかし、このシステムは筋電気刺激(EMS)を利用して腹部の筋肉を電気で収縮させ、まるで低音が身体の中から響いてくるような感覚を生み出します。

しかも研究では繰り返し使うほど違和感が減り、 “慣れ効果”まで確認されリズム認知で有意、さらに一体感で優位傾向を示しました。

これまで“耳で聴く”だけだった音楽体験は、“身体で浴びて感じる”時代へと進化していくのでしょうか?

研究内容の詳細は『IEEE Access』にて発表されました。

身体で”聴く”静音型ウェアラブル音響で「音のない重低音」体験を実現! https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20250808140000.html
Myoelectric Stimulation Silent Subwoofer Which Presents the Deep Bass-Induced Body-Sensory Acoustic Sensation https://doi.org/10.1109/ACCESS.2025.3565283

音を出さずに迫力を届ける方法とは

音を出さずに迫力を届ける方法とは
音を出さずに迫力を届ける方法とは / 図は、「音」と「EMSによる電気刺激」を提示したときに、人がそれぞれをどのくらいのタイミングで感じるのか、その差を測るための実験の様子を表しています。 図の左上には、リズムの信号をつくるコンピューターがあります。そこから出されたリズム信号は、2つの方法で参加者に伝えられます。ひとつはスピーカーを使って音として出す方法、もうひとつはEMS送信機を使って、電気で筋肉を刺激する方法です。 どちらの場合も、参加者はリズムに合わせて机を指でトントンとタップします。そのタップ音はマイクで記録されます。そして、提示されたリズム信号と一緒に保存されます。 図の下にある波形を見ると、リズム信号とタップ音のタイミングが並んで表示されていて、赤い丸で「打点の瞬間」がわかるようになっています。これにより、音でタップしたときと、EMSでタップしたときのズレを計算できます。 この実験の結果、EMSによる刺激は、音のリズムよりも平均で約40ミリ秒(1000分の40秒)遅れて感じられることがわかりました。このズレをふまえて、後のVRライブの体験実験では、あらかじめ映像と音に40ミリ秒の遅れを加えて、体の感覚とぴったり合うように調整されました。Credit:Myoelectric Stimulation Silent Subwoofer Which Presents the Deep Bass-Induced Body-Sensory Acoustic Sensation

ライブ会場の「ドンッ」という重低音は、耳で聴くだけでなく体で感じる成分が大きいです。

とくに低い音は空気の圧力変化と、体の大きな筋肉や内臓に伝わる揺れが合わさって「響く感じ」を生みます。

しかし自宅で同じ体感を再現しようとすると、大きな音が近所迷惑になりやすいという問題が立ちはだかります。

重低音専用スピーカーは迫力がありますが、壁や床を震わせやすく、防音や設置スペースの負担も大きくなります。

そのため「音を大きくしないで体感だけ届ける」アプローチが注目されてきました。

これまでの代表例は、ベストや椅子に仕込んだモーターで振動を与えるデバイスです。

ただし振動デバイスは触れている一点が主に揺れるため、全身に広がるような「腹の底から来る感じ」を出しにくいという課題がありました。

ここで期待されているのが、筋電気刺激(EMS)という手法です。

EMSは筋肉に弱い電気刺激を与えて意図的に収縮させる技術で、リハビリやトレーニングでも使われています。

筋肉そのものが動くため、モーターで表面を震わせるのとは異なる「体の内側からの実感」を作りやすいと考えられます。

また、音をほとんど出さずに体感だけを提示できるので、集合住宅や夜間の鑑賞とも相性が良い可能性があります。

研究チームはこの特性に着目し、腹部の大きな筋群(腹直筋や腹斜筋など)に着ける小型のEMS装置で、重低音の「ドンッ」を静かに再現できるかを検証することにしました。

背景として、人は一般に触覚の立ち上がりを音よりわずかに遅く感じる傾向があるため、映像・音・触覚のタイミングを整えることも重要なポイントになります。

本研究の目的は大きく三つです。

第一に、EMSを使って「音を鳴らさずに重低音の身体感覚を提示する」コンセプトが実際に成り立つかを確かめること。

第二に、従来の方式(スピーカー+重低音専用スピーカーや身につける振動デバイス)と比べて、没入感やリズムの感じやすさなどがどの程度得られるかを評価すること。

第三に、初めての刺激でも使い続けるうちに慣れて評価が上がるのかという「慣れ」の効果を見極めること。

これらが達成できれば、騒音を出さずに音楽VR体験の臨場感を高める、新しい家庭向けの選択肢を示せます。

次ページ静かなのに重低音の衝撃がズシンとくる体感技術

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

テクノロジーのニュースtechnology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!