自撮り写真の加工は「モノ」としての自己認識を助長する
調査の結果、自撮り写真の加工頻度は、自分を「モノ」として認識する考えを促進し、自己魅力度の評価と自尊心を低下させる可能性が示唆されました。
自撮り写真の加工は、自分の顔や身体の形を変え、自分を理想的な姿に近づける行為です。
加工後の自撮り写真を見て、本人は見た目が理想に近づいたと満足しますが、現実では外見に変化はありません。
この現実と理想のギャップが、自己評価の低下を引き起こす可能性があるのです。
研究チームは「写真を加工する行為は、自己を「モノ」として捉え、自己の価値を歪める可能性がある」と警鐘を鳴らしています。
また、研究チームはこの研究にいくつかの限界があったと述べています。
それはデータが自己申告に基づいており、偏りが存在する可能性がある点と、研究デザインが横断的であるため、因果関係の推定まではできない点です。
横断的な実験デザインとは、ある特定の時点のデータを収集する研究デザインを指します。この実験デザインは、調査した時点での現象の特徴や要因の関係性を調査できますが、時間の経過に伴う変化や因果関係の検討には向いていません。
ただしこの研究は、若者のSNSの関わりと写真の加工・編集行為に対する意識向上の重要性を教えてくれます。
具体的な介入として、高校などの教育機関で、写真の過度な加工が精神的健康に及ぼす悪影響について学ぶ機会を設けることなどが挙げられるでしょう。
多感な年齢層に、SNSの過剰な使用と写真の加工に潜む負の影響を伝えることで、自己認識の偏りを防ぐ手助けになるかもしれません。
現実とズレた自分をSNSに投稿しない
では健康的なSNSの使用方法とはどのようなものなのでしょうか。
それは、SNSに嘘や加工した写真を投稿するのではなく、等身大の自分を投稿することかも知れません。
2020年の「Nature Communications」に投稿された、ブリストル大学のエリカ・ベイリー(Erica Bailey)らの研究では、Facebookユーザー90名を対象に、実験期間の最初の1週間は「自分の本当のこと」だけを投稿し、続くもう1週間は「理想の自分の姿」を投稿してもらい、精神的な状態の変化を比較しています。
実験の結果、「自分の本当のこと」だけをFacebookに投稿した1週間後には、ポジティブな感情が増え、気分が改善し、「理想の自分の姿」だけをFacebookに投稿した1週間後には、ネガティブな感情が増え、気分が悪化する傾向が確認されました。
この結果は、SNS上で現実の自分とは異なる「理想の自分の姿」に関する投稿は、精神状態を悪化する方向に招く可能性を示していると言えるでしょう。
研究チームは「私たちの結果は、SNSへの関与が個人の精神状態に役立つのか害するのかは、その個人がプラットフォームでどのように自己を表現するのかに左右される可能性を示唆している」と述べています。
もちろんこれは個人情報を隠さず上げろと言っているわけではないので、勘違いしないよう注意しましょう。
SNSで顔を隠すことや、個人の特定に繋がる情報を隠したり誤魔化すことはネットリテラシーの観点から重要です。
また自身の容姿に気を使い、お化粧やファッションを楽しむことは、自分を好きになったり、自分の気持ちを前向きにするために有効なことでしょう。
研究はこれらの要素を否定しているわけではなく、自分の気持ちや存在をネット上で偽って表現することのデメリットを報告するものです。
次回のSNS投稿では、真実の自分に関する素直な内容を共有してみるのもいいかもしれません。