免疫システムが反応しない薬物分子を認識させる技術
なぜ私たちの免疫システムは薬物を認識できないのか?
原因はサイズにありました。
免疫システムが異物を認識できる大きさには限度があり、最低でも分子量6000以上の大きさがないと、異物として学習してくれないのです。
(※ワクチンに使われている細菌やウイルスの断片の分子量は数万もあるため問題ありません)
市販の頭痛薬や胃腸薬を飲んでもそれらの薬に免疫ができないのは、薬効成分の多くが分子量1000にも満たない小分子でできているからです。
ヘロインやフェンタニルの分子量はどちらも350前後であるため、そのままの状態で注射しても、ワクチンとして働くことはありません。
(※単なる薬物接種と同じです)
そこで研究者たちは、ヘロインやフェンタニルを模倣した小分子(ハプテン)を大きなタンパク質の粒子に結合させる方法を開発し、免疫システムに認識できるサイズにすることを思いつきます。
こうすることで、免疫システムにヘロインやフェンタニルを異物として認識させるチャンスが生まれます。
さらに今回の試みでは、ワクチンに混合される「アジュバント」も改良されました。
アジュバントとは、広い意味で「補助剤」のことを指し、薬の主成分の働きを高めるために加えられる成分です。
ワクチンの場合、免疫システムの学習を助け、効果を増強させる効果が期待されています。
既存のワクチンの多くはアジュバントとしてアルミニウム塩(ミョウバン)が用いられていましたが、今回はモンタナ大学が開発したINI-4001(TLR7/8)が使用され、性能を大きく向上させることに成功しています。
またマウス・ラット・ミニブタを用いた動物実験を行ったところ、ワクチンを注射された動物たちはフェンタニルに対する興味を失ったことが確認できました。
また強制的に過剰摂取させた場合、ワクチンを打たなかった動物は呼吸機能の麻痺によって死んでしまいましたが、ワクチンを売った動物のほとんどは生存することができました。
また動物たちの体内で何が起きているかを調べたところ、ワクチンによって作られた抗体が小さな薬物の分子に結合したことで、脳の関所となる血液脳関門を通過できなくなっていたことがわかりました。
最初は認識できなかった小さな分子でも、一度認識できてしまえば免疫システムが働いてくれたのです。
この結果は、抗薬物ワクチンによって動物たちの免疫システムが本来であれば認識できない薬物の小分子を異物として認識して、中和するための抗体を作り、脳への到達を妨げていたことを示します。
一方、ワクチンによって訓練された免疫システムが他の鎮痛剤や麻酔薬に反応しないかどうかを調べたところ、影響を与えていないことが示されました。
新型コロナウイルスのワクチンを接種してもインフルエンザウイルスに反応できないのと同じように、ヘロインやフェンタニルに対抗するために作られた抗薬物ワクチンは、手術で使う重要な薬の効果には影響を与えませんでした。
研究者たちは動物実験の成功を受けて現在、人体でのテストである臨床試験の準備を進めているとのこと。
最初のテストは2024年に計画されており、第一弾としてヘロインワクチンがテストされるようです。
もし抗薬物ワクチンが開発されれば、中毒患者たちに2つの道を提供できるでしょう。
1つはワクチンを接種して2度と薬物で快楽を感じないようにする方法、もう1つ90%もの再発率を意思の力だけで乗り切る方法です。
研究者たちは同様の手法でさまざまな違法薬物に対するワクチンを作ることもできると述べています。
もしかしたら未来の薬物中毒の治療は、現在の辛い断薬ではなく、注射1本で全て解決するかもしれません。