父親は犬種不明のイエイヌ、母親はキツネと判明!
ことの発端は2021年、ブラジル最南端リオグランデ・ド・スル州の町バカリアで起こった自動車と1匹の動物(メス)との衝突事故でした。
ケガを負った動物はすぐさま、UFRGSの野生動物保護リハビリテーションセンターに搬送され、治療を受けます。
ところが担当した研究チームは、動物の見た目に非常な違和感を覚えました。
顔立ちは中型犬に近い特徴を備えていたものの、ピンと立った大きな三角形の耳はまさにキツネのそれと同じだったのです。
また行動面も風変わりで、犬のような鳴き声を出しながら、一般に犬が食べる餌は口にせず、代わりに生きたネズミを食べたといいます。
性格は内気で警戒心が強く、野生犬のような攻撃性はありませんでした。
研究者らも「犬の世話をしているのか、キツネの世話をしているのか、よく分からなかった」と話しています。
こちらがその動物の様子。(その他の画像はこちらに掲載されています)
そこでチームは、この謎めいた動物の正体を明らかにすべく、遺伝子調査を決行しました。
外見や行動面からイヌ科のハイブリッド種の可能性が高いと見て、リオ・グランデ・ド・スル州に生息するイヌ科動物を対象に調べています。
候補として挙がったのは「ヤブイヌ」「タテガミオオカミ」「カニクイイヌ」「パンパスギツネ」の4種ですが、ヤブイヌは見た目や生息域が違いすぎることから最初に除外されました。
次に、南米最大のイヌ科であるタテガミオオカミもサイズや毛色が大きく違うことから除外されています。
残る候補はカニクイイヌとパンパスギツネですが、この2種は毛色やサイズともに「保護された動物」と共通点があり、どちらも親となりうる可能性があります。
見た目ではこれ以上の判断は出来ないため、研究者たちはここまで絞った候補2種と「保護された動物」の3種で遺伝子の比較分析を行うことにしました。
すると保護された動物は、家畜種である何らかのイエイヌ(Canis familiaris)とパンパスギツネとの組み合わせでのみ生まれうることが判明したのです。
特に遺伝子データからは、母親がパンパスギツネで、父親が犬種不明のイエイヌであることが特定されました。
研究者いわく、犬とキツネのハイブリッド種が確認されたのは世界初とのことです。
ただし今回、母親と判明したパンパスギツネ(学名:Lycalopex gymnocercus)は、英語名でもPampas foxと呼ぶように名前に「キツネ」と付きますが、キツネ属とは違うグループに分類されます。
実際にはキツネと非常に近いスジオイヌ属(Lycalopex)の一種なので、イヌとの交配も可能だったのかもしれません。
それでも研究者らは、パンパスギツネの属するスジオイヌ属と一般的なイヌ属(Canis)との繁殖が可能であることは初めて判明した事実であり、驚きに変わりはないと述べています。
またスジオイヌ属に分類される動物種はみんな見た目がほぼ完全にキツネであり、名前にもすべて「キツネ(Fox)」が入っています。
チームはこのハイブリッド種に「グラコソーラ(graxorra)」 と 「ドギシム(dogxim)」 という2つの名前を与えました。
graxorraは、パンパスギツネのポルトガル語名である 「グラクサイム・ド・カンポ(graxaim-do-campo)」 と、メス犬を意味する「カチョーラ(cachorra)」との造語。
dogximは、グラクサイム(graxaim)の頭をドッグ(dog)に取り替えた造語です。
研究主任の一人であるフラビア・フェラーリ(Flávia Ferrari)氏は「彼女は内気で慎重な性格で、当初は人を警戒していましたが、時間が経つにつれて徐々に慣れ始めました」と話しています。
その後、彼女は同センターで完全に回復し、別の町の動物保護センターに移されましたが、今年に入り原因不明の死を遂げているそうです。
チームは現在、彼女のようなハイブリッド種が同地の野生下でどれくらい起こっているかの調査を始めています。
というのも近年は人の住む地域の拡大に伴い、人間と野生動物だけでなく、人の飼っているペットと野生動物との接触の機会が増加しているからです。
これは病気の伝染だけでなく、今回のようなハイブリッド種が発生する可能性を高めます。
もしかしたらグラコソーラ(あるいはドギシム)も、何らかの理由で野生に戻ったオスの飼育犬が、メスのパンパスギツネと交配して生まれたのかもしれません。
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