種を超えた感染は現実にも起きている
銀葉病は真菌によって引き起こされる感染症で、バラやサクラなどさまざまな植物に感染する疾患です。
銀葉という名前は真菌の出す毒素が葉に到達して組織に崩壊や剥離を起こし、銀色に輝くことに由来しています。
他にもリンゴに発生する銀葉病の場合、毒素が果実にも侵入して、蜜が入りやすくなる『みつ症』といった症状が出ることがあります。
感染が最終段階に達した樹木では、根本付近に子実体(キノコ)が出現して空気中に胞子を放出します。
放出された胞子が水分のある場所や新たな宿主に漂着すると、内部からアメーバー状の真菌が出現し、再び増殖を開始します。
真菌は動物細胞とは異なり植物のような細胞壁のバリアを持ちますが、植物のように自ら栄養を生成することはできません。
また細菌や古細菌とも異なり、DNAを収める細胞核やミトコンドリアのような細胞小器官を数多く備えます。
そのため細胞レベルでは、真菌は細菌よりも人間に近い存在と言えるでしょう。
真菌の種類は600万種以上も存在すると考えられており、生命の木で巨大なグループを形成しています。
そのため真菌は植物だけでなく、多くの種に感染します。
人間にとっても真菌性疾患は決して珍しいことではありません。
白癬、水虫、およびカンジダ症はなどは、人間の皮膚表面に起こる真菌感染が原因です。
ただ何百万もの既知の種のうち、私たちに多大な害を及ぼすことができるのはほんの300種だけです。
ほとんどの種類の真菌にとっての最適温度は12℃から30℃であり、私たちの体温(37℃)に耐えることができないからです。
(※一部には耐熱性を示す真菌もいます)
一方で、しばしば真菌たちは本来の宿主以外の種に感染することが知られています。
しかし通常はリンゴからイネ(同じ植物間)、カブトムシからトンボ(同じ昆虫間)、コウモリから人間(同じ哺乳類間)など宿主間の進化距離が比較的近い場合がほとんどです。
これは近距離の移動にしか耐えられない乗り物に簡単な改造を加えて長距離移動を試みているようなものです。
たとえるならば、農耕用トラックを改造し高速道路で隣の県へ移動するようなものでしょう。
簡単なことではありませんが、膨大なトライアンドエラーを経れば実現可能です。
では映画ラストオブアスのように、昆虫のゾンビ菌が人間をゾンビ化することはあり得るのでしょうか?