振動や騒音を雷雨が近づいているサインと勘違いした?
イギリス・ウォルバーハンプトン大学の爬虫両生類学者、マーク・オシェア教授は、ヘリコプターがワニの交尾行動を刺激する要因について複数の理由が考えられると指摘しています。
オシェア教授によれば、低空飛行するヘリコプターのローターが作り出す振動や騒音、気圧の変化、低周波は、ワニにとって雷雨の接近を示す信号として解釈される可能性があるといいます。
大雨や雷雨には、多くの種類のワニにとって交尾を誘因する作用があります。特にイリエワニは、大雨や嵐の後、孵化したばかりの子供が洪水で溺れないように、交尾のタイミングを見計らっています。
つまり、子供のワニがなるべく穏やかな状況で孵化する可能性を高めるべく、イリエワニは雷雨の間に交尾をするのです。
ワニの皮膚にはISOと呼ばれる感覚器官があり、これによって気圧、低周波などを感知することができます。
チヌーク・ヘリコプターなどの大型ヘリコプターが生み出す気圧の変化や低周波は、ワニのISOが感知できる範囲にあると考えられており、結果としてワニたちに雷雨の接近として感じさせている可能性があります。特に交尾期になるとその影響が大きくなるとオシェア教授は指摘しています。
また、チヌーク・ヘリコプターが生み出す騒音そのものが、オスのワニを興奮させている可能性もあります。
オーストラリア・チャールズ・ダーウィン大学の研究者で、ワニの生態や行動に関する専門家であるキャメロン・ベイカー博士は、「オスのワニは、ヘリコプターの音を縄張りを主張する他のオスのワニが出す音と勘違いし、その反応として交尾行動を活性化している可能性がある」と指摘しています。
ワニがこの音をどのようにコミュニケーションの手段として使用しているかはまだわかっていませんが、ワニは低い周波数の鳴き声を出すために体全体を振動させることが推測されています。
しかし、オシェア教授は「通常、ワニの交尾は最適な巣作りの時期に合わせて行われ、クーラナ・クロコダイル・ファームが位置するオーストラリア北部では、10月がワニの交尾の最適な時期である」とも説明しています。
どうやら今回ワニが一斉に交尾を始めたのは、チヌーク・ヘリコプターだけが原因というわけではないようです。
低空飛行したヘリコプターが生み出した騒音、気圧の変化、低周波、そして繁殖期が近かったことなど、複数の要因が重なり合ったうえでの騒動だったと考えられます。
それにしても3000匹以上ものワニがいるワニ園で、一斉に交尾が始まるとなると、その光景は圧巻だったでしょう。
しかし、いくら繁殖期が近かったとはいっても、本来雷雨の中で交尾をするはずだったワニたちからしてみると、生まれてくる子供を危険にさらす可能性があるため、今回のチヌーク・ヘリコプターの低空飛行はいい迷惑だったのかもしれません。