磁石の回転だけで磁気浮上を起こせる新発見、その理論が早くも完成
磁石の回転だけで磁気浮上を起こせる新発見、その理論が早くも完成 / Credit:MagnetismDTU,Magnetic levitation demonstrated using a Dremel tool spinning a magnet at 266 Hz.
physics

回転するドリルの先端に磁石が浮き続ける不思議現象の仕組みを解明!

2023.10.18 Wednesday

誰でも気軽に磁気浮遊ができます。

デンマーク工科大学(DTU)で行われた研究によって、2021年に発見されたばかりの新たな磁気浮上の仕組みが解き明かされました。

磁石を使って別の磁石の浮上を試みる磁気浮遊は、おもちゃからリニアモーターカーまで広く取り入れられている技術であり、ある程度探求し尽くされていたと思われていました。

しかし2021年になって、高速回転する磁石を使った新型の磁気浮遊が発見され、物理学界を大きく騒がせました。

しかもこの新型磁気浮遊に必要な材料は、家庭でも揃うドリルと磁石だけだったのです。

今回の研究では、この磁気浮遊がどんな仕組みで起こるかが調べられることになりました。

新型の磁気浮遊は家庭にあるようなドリルと磁石があれば誰でも再現可能という点からもわかるように、非常に簡単に再現できるため、工業分野での応用が期待されます。

しかし、なぜ磁石を高速回転させるだけで、他の磁石を浮上させることができるのでしょうか?

研究結果の詳細は2023年10月13日に『PHYSICAL REVIEW APPLIED』にて公開されました。

Why a spinning magnet can cause a second magnet to levitate https://phys.org/news/2023-10-magnet-levitate.html
Magnetic levitation by rotation https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.20.044036

2021年に発見されたばかりの新しい磁気浮遊

2021年に発見されたばかりの新しい磁気浮遊
2021年に発見されたばかりの新しい磁気浮遊 / Credit: IEEE Around-the-Clock Around-the-Globe Magnetics Conference . DTU

多くの人は子供の頃、2つの磁石を上手く合わせて、一方の磁石を浮遊させられないか試したことでしょう。

物体の浮遊は直感に反する現象であり、SF作品に登場する神秘的なオブジェクトはしばしば、浮遊した状態で描かれています。

しかし多くの試みにもかかわらず、2個の磁石での浮遊に成功させた人はいないでしょう。

磁石には自らの重さ以上の物体を引き上げる力がありますが、空中に持続的に浮かび続ける「安定した浮遊」を実現するには、力のバランスを制御する別の技術が必要となるからです。

しかし2021年になって、同じような大きさの2つの永久磁石を使用する、新しいタイプの磁気浮上が発見されました。

上の回転する磁石が下の磁石を浮遊させる
上の回転する磁石が下の磁石を浮遊させる / Credit:Joachim Marco Hermansen . Magnetic levitation by rotation . PHYSICAL REVIEW APPLIED (2023)

この新たな磁気浮上では上の図のようにローターと呼ばれる水平方向にN極とS極が倒された磁石が毎分1万回転もの速度で回転されます。

この回転しているローター磁石を、垂直方向にN極とS極が配置されたフローターと名付けられたもう一方の磁石に近づけると、フローターがローターに向けて浮上するのです。

また興味深いことに、このフローターの浮上は単に重力と逆方向の力が働くのではなく、ローターから「一定の位置に固定」されます。

浮上しているローターを上方向に摘み上げようとする場合にも、重力に加えて固定を打ち破る追加の力が必要とされるのです。

ドリルを横に倒しても一定の距離を保って浮遊したまま
ドリルを横に倒しても一定の距離を保って浮遊したまま / Credit:MagnetismDTU,Magnetic levitation demonstrated using a Dremel tool spinning a magnet at 266 Hz.

そのため上の動画のように仕組み全体を横に倒しても、ローターを浮遊させ続けることが可能となっています。

磁気で物体がフワフワと浮上する現象は、おもちゃとして古くから知られている、回転しながら浮上するコマ「レビトロン」にもみられます。

1970年代に開発された浮遊するコマのおもちゃ
1970年代に開発された浮遊するコマのおもちゃ / Credit:en.wikipedia

しかしレビトロンのコマは浮いていますが、ドリルの動画のように角度を変えても追従して浮き続けるような力はありませんでした。

このレビトロンでは、磁石の回転速度は人間の指の力でも達成できる程度(500RPM)であり、安定して浮かんでいるのもコマの回転する力に頼っています。

レビトロンは重力に逆らっているだけで固定されておらず、横に倒すと落下してしまします
レビトロンは重力に逆らっているだけで固定されておらず、横に倒すと落下してしまします / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

そのためレビトロンを横倒しにすると、上のコマは下に落ちて行ってしまいます。

一方、2021年に発見された磁気浮遊は遥かに高速の回転(1万RPM)を行った場合に、動画のように角度の変化にも追従し磁石同士の距離を維持し続けたのです。

レビトロンが磁力の力とコマの安定性だけに依存して浮かんでいる一方で、新型の磁気浮遊は浮かばせるというよりも、特定の位置に相手を固定するものと言えるでしょう。

(※実験装置の写真にあるN極とS極の位置関係も、レビトロンとは全く違うものになっています)

そのため新発見された磁気浮上は、既存の磁気浮上とは異なる、未知の仕組みによって達成されていると考えられています。

そこで今回、デンマーク工科大学の研究者たちは、発見から間もない新たな磁気浮上の仕組みを解明すべく、調査に乗り出しました。

なぜ高速回転する磁石は、横向きにしても磁石を空中に固定できるのでしょうか?

次ページN極とS極を結ぶ軸が本来の位置から傾いていた

<

1

2

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

物理学のニュースphysics news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!