N極とS極を結ぶ軸が本来の位置から傾いていた
なぜ高速回転させるだけで磁気浮上を起こせるのか?
謎を解明すべく研究者たちは、最も初歩的かつ有効な手段「視覚的分析」を行いました。
調査にあたってはまず、高速撮影が可能なカメラと磁石の回転を追跡できる追跡ソフトが用意され、浮上中の磁石の挙動が確かめられました。
すると浮上が起こると回転する磁石(ローター)につられて浮上した磁石(フローター)も回転し始め、2つの磁石の回転が同期(周波数がロック)していることが判明。
またローターの回転を調べたところ、N極とS極を通る極軸が水平方向からやや下向きに傾いていることが発見されました。
さらにフローター磁石の回転も回転軸に対して極軸が斜めに傾いていることが判明します。
つまり2つの磁石は単に互いに垂直方向に回転しているだけでなく、N極とS極の位置が本来の場所からズレを起こしていたのです。
確かにN極とS極を結ぶ極軸が直行する状態が変わらなければ、磁石をどんなに回そうが、磁気浮上は起こらないのは、なんとなく理解できます。
(※上側の磁石が下側に及ぼす影響が中立のままのため)
ただこのズレや回転の同期が浮上をもたらす仕組みを解き明かすには、観察結果を力学的に分析しなければなりません。
そこで研究者たちは実験システムと同じセットをシミュレーション空間で構築し、どんな力がどんな変化を起こしているかを調べてみました。
すると回転が同期する点は、ローター磁石の回転する磁場がフローター磁石に対して回転を促していた(トルクを与えていた)からだと判明。
またフローター磁石は回転することで垂直方向への安定性(ジャイロ効果)を得ていました。
(※電気エネルギーと力学的エネルギーを交換する回転電気機械では回転磁界を使って電力やトルクを発生させることが可能だと知られています)
一方、磁気浮上を起こすのは、ローター磁石のN極とS極を通る極軸が、回転面に対してやや下に傾いていることが主な原因となっていました。
ローター磁石の極軸に下側への傾きが起こると、直下のフローター磁石に対して、吸引する力と反発する力の両方が発生し、フローターを空間の1点に固定する力になっていたのです。
また興味深いことに、ざまざまな大きさのフローター磁石で実験を行ったところ、小さなフローター磁石を浮上(固定)させるには、より速い回転速度が必要であり、固定位置もローター磁石から遠くなることが判明します。
直感的には、より大きなフローター磁石を持ち上げるには、より大きなエネルギーでドリルを早く回転させるべきだと思われますが、結果は逆になったのです。
研究者たちは回転による磁気浮上(固定)は、非接触式のロボットアームや磁気スプリングとして使うことが可能であり、その単純な仕組みは工学的な用途に向いていると述べています。