ヒトデは「歩く頭」だった!
本研究にあたってチームは、身体部位の発生に関連することが知られる遺伝子マーカーを使用しました。
これらの遺伝子マーカーは、例えば「頭は〇〇遺伝子」「腕は△△遺伝子」にというように、どの遺伝子がどの身体部位を作り出すかを教えてくれるものです。
しかもこれらの遺伝子マーカーは、哺乳類や鳥類、魚類、昆虫、さらには線虫に至るまで、あらゆる生物グループで同じものが共有されていることが分かっています。
つまり、他の動物たちの遺伝子マーカーを調べて、それをヒトデと比較すれば、ヒトデにおける頭や腕がどこに位置しているかが特定できるのです。
(遺伝子マーカーの一例に「Hox遺伝子」があり、これは体軸に沿った様々な形づくりの基盤となる重要な役割を担っている)
今回の研究では「パトリア・ミニアータ(Patiria Miniata)」というヒトデ種を対象にしました。
チームはまず、ヒトデの各部位から薄くスライスした組織サンプルを取り、ヒトデの体を3Dで再構築しています。
こちらがその3Dモデルで、それぞれ骨格(灰)・消化器官(黄)・神経系(青)・筋肉(赤)・水管系(紫)を示しています。
(ちなみに薄くスライスする程度であれば、ヒトデは死なずにその部位を再生できると注意書きされている)
そして次に、ヒトデの体内のどの場所でどんな遺伝子マーカーが発現しているかをマッピングしました。
その結果、これまで「腕」と考えられてきた5つの部位は、実際は「頭」であることが判明したのです。
端的に言って、ヒトデの体はほぼすべてが頭部に関連する遺伝子を発現しており、頭が5つに枝分かれしているような状態にありました。
他方で、左右相称動物に見られる腕や胴体を発現する遺伝子がほとんど存在していなかったのです。
これを受けて、研究主任のローラン・フォーマリー(Laurent Formery)氏は「まるでヒトデが胴体を完全に失っているかのようでした」と指摘。
つづけて「頭だけが海底を歩き回っていると表現するのが最も適切だと思われました」と話しています。
まさにヒトデは”歩く頭”だったのです。
となると、スポンジボブに登場する「パトリック・スター」はすべての突起に目と口を付けないといけないかもしれません。
本研究の成果は、ヒトデがその進化の過程で胴体を形づくる遺伝子を失くしたことを示唆しています。
同チームの一人で英サウサンプトン大学(University of Southampton)のジェフ・トンプソン(Jeff Thompson)氏は「私たちの研究は、棘皮動物のボディプランがこれまで考えられていた以上に複雑な形で進化しており、これらの興味深い生物について、学ぶべきことがたくさんあることを示している」と述べました。