単為生殖昆虫の性交を遺伝子解析で発見

ナナフシ目ティマ属の昆虫は21種類おり、うち5種類が単為生殖です。
ティマ属の単為生殖昆虫は百万年以上にわたり、単為生殖を保ったまま生き抜いています。
スイス、ローザンヌ大学のスサナ・フレイタス氏らの研究グループは、この5種類の単為生殖昆虫について、長期にわたり絶滅せず、環境に適応していることから、何らかの手段で遺伝子多様性を得ているのではないかと考えました。
ティマ属の単為生殖昆虫が単為生殖だけでなく、有性生殖に切り替えることができる(=性交によっても子孫を増やせる)可能性について、遺伝子解析を用いた調査を行うことにしたのです。
本当に百万年以上にもわたりずっと単為生殖で子孫を作ってきたのならば、同じ品種の虫たちはクローンのように似通った遺伝子を持つはずです。
そこで、研究グループは単為生殖の8種各24匹と、これらと近しい有性生殖の1種24匹について、遺伝子解析を行いました。
その結果、単為生殖のうち6種はほぼクローンと言えるレベルの似通った遺伝子を持っていることがわかり、少なくともしばらくは性交が行われていないことが示されました。
一方、単為生殖の残り2種については、一部に近しい遺伝子が組み替えられた個体が発見されました。
有性生殖のものほどではないものの、これらの遺伝子は高いヘテロ接合性を持っています。
ヘテロ接合とは、2つの異なる形質を持った染色体の遺伝型を指します。
逆に、形質の同じ染色体がセットになった遺伝型がホモ接合です。
単為生殖の場合、母親の遺伝子だけで別個体を作り出すため、ホモ接合性が高くなります。
ヘテロ接合性が高い場合、両親の持つ異なる染色体が接合していると解釈するのが妥当なため、性交によって生まれた個体と判断することができます。
このことから、単為生殖昆虫の中には、有性生殖ほどの頻度ではないにせよ、性交を時々行っている品種がいることが示されました。
つまり、単為生殖昆虫は単為生殖でしか繁殖できないわけではなく、有性生殖も可能である中で単為生殖を優先しているのです。
単為生殖を優先する理由とは?

環境に適応して長い間種を保つという観点でいうと、遺伝子多様性はかなり優先度が高い事柄と言えます。
しかし、実は単為生殖にも大きなメリットがあるのです。
性交時はどうしても動きが制限され、捕食されやすくなりますが、単為生殖なら安全ですし、性交による感染症のリスクも避けられます。
また、単為生殖のティマ属が暮らす山では山火事が起こることがあると言います。
山火事は、そのあたり一体に済む昆虫を一気に大量に殺してしまいます。
種族の大部分が死に絶えたときオスとメスが出会って性交するのは簡単なことではありません。
しかし単為生殖の場合は1匹でも生き残れば子孫を残し、種を保つことができるのです。
つまり、単為生殖を主としつつ、遺伝子多様性が得られるのであれば、それほど種の存続に強い手段はありません。
今回、性交が確認できた単為生殖のティマ属は8種中2種でしたが、単為生殖のティマ属が長い間絶滅せず生き抜けていることを考えると、残り6種でも今回確認できなかっただけでごく稀な性交を行っている可能性があります。
遺伝子の多様性がないティマ属の単為生殖昆虫は、稀に性交することで遺伝子交配を行い、環境に適応していくことで、百万年以上にわたり種を存続させてきたのです。
このように、単為生殖を主としてごくまれに有性生殖を行っているという例は今回のティマ属の例で初めて発見されましたが、実は昆虫たちにとって有性生殖と単為生殖を組み合わせることはそれほど珍しいことではありません。