記憶は出来事の「終わり方」から影響を受ける
私たちの記憶には多くの誤りが生じることは、みなさんもご存知でしょう。
私たちはしばしば、事の詳細を忘れたり、歪めたり、実際には起こらなかったことを思い出したりもします。
これまでの多くの研究から、記憶は「過去の出来事を正確に記録したもの」ではなく、かなりあやふやでバイアスの影響を受けやすいものだということがわかっています。
一般的な知識や信念の認知的枠組み(スキーマ)や、特定の状況や活動における行動順序の枠組み(スクリプト)は、私たちがどのように出来事を経験し、それを記憶するかに影響を与えます。
たとえば記憶に不完全な点があれば、これを「埋める」ために、既存の知識や常識を利用することがあります。また、複雑な出来事を記憶する際には、余計な詳細を省略して、情報を「圧縮する」こともあります。
ところで、私たちは、日常生活のさまざまな活動や出来事を記憶するとき、それらを明確な「始まり」、「中間」、「終わり」というパートを持つひとつのイベントとして捉える傾向があります。
たとえば、朝起きて家を出る、昼食をとる、夕方に帰宅するといった一日の流れは、時間的な連続性を持つ一連の出来事として記憶に残ります。
一つの出来事が終わり、新しい出来事が始まる瞬間を、「イベント境界(Event Boundary)」と呼びます。たとえば、家を出て車に乗る瞬間や、食事が終わり皿を洗い始める瞬間などが、これにあたります。
つまりイベント境界とは、ある一連の出来事の始まりと終わりの部分です。
このイベント境界は、私たちの認識と記憶のプロセスにおいて、特に注目されやすく、記憶に残りやすいことが、先行研究により明らかになっています。
英国サセックス大学(University of Sussex)の研究者らは、脳がイベント境界を重要だと捉える点に着目し、これが人の記憶にどう影響するのかを探求しました。
彼らは、「出来事の終わり方」に焦点を当て、「記憶の歪み」が生じる原因についてを、総勢526人の参加者を対象にした実験を行いました。
結果、「不完全な終わり方」をした物事の記憶はエラーを起こしやすいことが明らかとなり、この記憶のエラーは具体的な手がかりによって解消される可能性があることがわかりました。
それでは、どんな実験が行われたかを確認していきましょう。