出来事が完了していないと「でっちあげ記憶」が作られる
研究者らは、5つの異なる実験を通じて、「不完全な終わり方」をした出来事が、どのように記憶に残るのかが検証されました。
実験では、細かい設定は異なるものの、基本的には「2種類の動画視聴」を行い、その後に「どんな内容だったか説明してもらうテスト」を行いました。
「手がかり」があると、より正確な記憶が引き出される
実験1〜3で参加者は、行動や出来事の完了を含む「完全な動画」と、内容が中途半端に終わる「不完全な動画」を視聴しました。
実験1と2では、視聴者は動画の視聴後に、動画についてどの程度記憶しているかを自己申告し、動画で起こった出来事について詳細に記述するよう求められました。
すると多くの参加者は、結末を見ていない「不完全な動画」に関して、最後まで見たと誤解して偽りの結末を答えてしまう「拡張記憶エラー(extension memory error)」が見られたのです。
しかし、次に行われた実験3では、これとは異なる結果が出ました。
実験3では、参加者は、実験1と2で視聴した2つの動画の「長いバージョン」を視聴し、どの時点まで記憶しているかを指摘する「認識記憶テスト」を受けました。この場合、参加者に「拡張記憶エラー」はほとんど観察されなかったのです。
このことから、たとえば実験3で使用された「長いバージョンの動画」のような具体的な手がかりがある場合、私たちは以前に経験したものや学んだことと照合し、より正確な記憶を引き出す傾向があることが示されました。
更新された情報は記憶から「省略」されがちである
次に行われた実験4は、「完了した後に新しい情報が追加された場合」は、これらが人の記憶にどう影響するかを調べる目的で行われました。
参加者は「不完全な動画」に加え、「更新された動画(場面完了直後に新しいシーンに切り替わり、数秒で終了する)」を視聴し、テストを受けました。
不完全な動画の視聴で「拡張記憶エラー」が多く見られたという点では、実験1−3と同様の結果となりました。
一方、更新されたビデオの視聴では、「中途半端に終了して場面が切り替わった情報」を省略する「省略エラー」が多く見られました。これは、イベントの自然な終わりが記憶の形成に重要であり、新しいシーンが完了する前に中断されると、その情報は記憶にしっかりと留まらないことを示唆しています。
時間の経過とともに、記憶はどんどん歪んでいく
実験5では、時間の経過が記憶の歪みにどのような影響を与えるかを調査することにありました。
この実験で参加者は、「不完全な動画」と「完全な動画」の2つを視聴し、視聴直後と1週間後に「記憶テスト」を受けました。
テストの結果、時間が経過するにつれて記憶エラーが増加することが確認されました。特に、不完全な動画に対する記憶は、時間が経過するにつれてより歪んでいく傾向があることが示されました。
研究は、私たちの記憶がいかに柔軟で、時には不完全な情報を基に再構築されることがあることかを示してくれます。
時間の経過で記憶が薄れたり、歪むのは私たちも自覚できる事実でしょう。
しかし終わり方がどうなったかあやふやな場合に、私たちは似たような新しい記憶を頼りに勝手に記憶を作ってしまう傾向があるようです。
こうした点が私たちが嘘の記憶を作ってしまうきっかけになっているようです。
あなたの記憶は完璧ではないかもしれませんが、欠陥品だというわけでもありません。
ときには家族や友人と、思い出話に花を咲かせ、お互いの「記憶違い」を笑い飛ばしてみても良いでしょう。そして、そのときどきで修正と新たな思い出を加え、物語を大事に育てていけば良いのではないでしょうか。