アクネ菌は脂質の蓄積を促して皮膚を「ふっくら」させる
研究者らは、脂質の生成におけるマイクロバームの役割を明らかにするために、ヒトの皮膚ケラチノサイト(表皮の最上層を構成する細胞)を、皮膚に自然に存在する様々な細菌に接触させ、脂質組成の変化を分析しました。
その結果、アクネ菌のみが細胞内での脂質産生の増加を引き起こしたことがわかりました。
具体的には、セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸、トリグリセリドを含む総脂質が3倍増加したのです。これらは、皮膚のバリア機能を維持し、ダメージから保護するのに不可欠な脂質として知られています。
次に研究者らは、この脂質の増加が主にプロピオン酸という短鎖脂肪酸の生成によるものと特定しました。プロピオン酸は、病原菌の増殖を抑制し、ブドウ球菌の感染を抑え、腸内の抗炎症作用にも寄与する脂肪酸です。
さらに、遺伝子検査を通じて、アクネ菌がPPARαを刺激し、プロピオン酸の生成を増加させることを突き止めました。PPARαは、脂肪酸の酸化と輸送を制御するホルモン受容体で、アクネ菌の刺激により、皮膚細胞の脂質の合成が増加します。
これらの脂質はセラミドの前駆体となる脂肪酸に分解され、皮膚のバリア機能に重要な役割を果たします。
研究者らこの研究で、アクネ菌によって誘導される脂質の蓄積が、皮膚のバリア機能を直接改善し、水分損失を減少させ、抗菌活性を増加させることを示したのです。
この研究では、アクネ菌が皮膚の健康に良い影響を与える可能性が示されましたが、どの脂質が皮膚の健康に大きく寄与するかの特定には至りませんでした。
また、研究はヒトの皮膚サンプルとマウスモデルを用いて行われたため、実際の患者の皮膚でどのような影響があるかは、まだ正確にはわかりません。
とはいえ、皮膚のバリア機能改善という「良い側面」がさらに研究されれば、長らく「悪者」とされてきたアクネ菌も汚名を返上できるかもしれません。