紙の本と電子書籍で内容の理解度は変わるのか
読者のみなさんは本を読むとき、紙の本で読みますか、それとも電子書籍で読みますか。
紙の本であれば、自分がどこまで読み進めたかや「本の真ん中手前あたりにこの情報があったな」と、どこに情報が載っていたかを物理的に把握することができます。
電子書籍には実体が無いので、そうした物理的な把握ができませんが、引き換えに何冊でも簡単に持ち歩くことができます。
それぞれメリットとデメリットがあるわけですが、いったいどの方法で読書した方が内容が頭に残るのでしょうか。
「Journal of Experimental Education」に投稿された、米メリーランド大学のローレン・シンガー氏(Lauren Singer)らの研究では、紙と電子書籍での内容理解度を比較しています。
実験には大学生90名が参加しました。
参加者は、①印刷された紙で読む人と、②デバイスで読む人の2つのグループに分けられ、その後に読んだ内容の理解度を測るテストを受けました。
内容の理解度を測るテストでは、文章の趣旨、要点、その他の関連する情報を書き出してもらっています。
実験の結果、読んだ文章の趣旨、その他の関連情報に関して、デバイスで読んだ人と比較して、印刷した紙で読んだ人のほうがより多くの情報を思い出すことができたのです。
またこの紙の内容理解の優位性は、新聞・専門書などジャンルが異なっても確認されています。
この紙の内容理解の優位性は、電子書籍よりも、紙の本は自分の必要としている情報が「何ページのどこあたりにあったか」を物理的に把握できるからだと考えられています。
紙の方が電子書籍よりも内容をよく理解できる傾向は複数の研究結果をまとめたメタ分析の研究でも報告されています。
「Educational Research Review」に「紙の本を捨てるな」という題目で投稿された、スペインのバレンシア大学のパブロ・デルガド氏(Pablo Delgado)らの研究では、「紙の本と電子書籍での理解度」を比較した過去の54件のメタ分析しています。
分析の結果、専門書や新聞などのジャンルを問わず、電子書籍よりも紙の本で読むほうが内容がより理解できることが確認されました。
ただし、この傾向は読書に使える時間の制約によって変化してしまうことが報告されています。
読書時間が限られている場合は紙の本のほうが内容の理解が進みますが、時間的な制約がない場合には、紙の内容理解の優位性は弱くなってしまうのです。
この結果は本の内容をできる限り早く理解し、記憶に定着させたい場合、紙の本が1番である可能性を示唆しています。
しかし電子書籍には、紙の本と比べて持ち運びが便利で、サイズも統一されているなど多くのメリットが存在することも確かです。
読書時間に制約がない場合、理解力の差が縮まるというのであれば、「あと何時間で読み終わらないと」という時間の制約がある状況でない余裕がある状況での読書なら、電子書籍で読んだ方が良いのかもしれません。