量子電池に不確定因果順序の仕組みを組み込む
実験ではまず量子電池の仕組みが構築され、異なる方法で「充電」が試みられました。
1つ目は量子電池に対して充電器Aと充電器Bが交互に接続する方法。
もう1つは少し特殊で、量子電池に対する充電器Aと充電器Bの接続をある種のブラックボックスの中に隠して、外部からはどちらが接続しているかわからないほど重ね合わせ状態にして充電します。
古典物理学の世界では2つの充電器(AとB)があるときには、どちらかが先行し、その後にもう一方が続くという因果順序でしか考えられません。
そのため直感的には、観察できる状態で充電しようが、ブラックボックスの中で充電されようが、充電効率に差はないように思われます。
しかし実際には2つ目の充電方法では「先に充電器A、後に充電器B」と「先に充電器B、後に充電器A」という2つの充電方法の因果順序の「重なり合い」が発生し、より効率的に充電が行われることが示されました。
これをあえて多世界解釈で表現すれば、1つの量子電池に対して「充電器A➔充電器Bの順で接続された世界」と「充電器B➔充電器Aの順で接続された世界」の2つの世界から充電が行われたと言えるでしょう。
また通常では、より多くのエネルギーを電池に送るには、より強い相互作用を伴った充電器を使うことが望ましいとされています。
ここでは話を簡単にするため、充電器Aと充電器Bの作用を合わせた強い作用を持つ充電器Cがあるとします。
直感的には、充電器Aと充電器Bの接続順をいかに巧みに行っても、充電器Cだけを使い続けた充電に負けてしまうように思われます。
しかし充電器Aと充電器Bを使って因果関係の重ね合わせた充電を実行すると、強い相互作用を持つ充電器Cを用いた時と同等か、それよりも高い効果を得られ「相互作用の反転効果」が得られることを見出しました。
さらに今回の研究では、既存の量子電池の性能を打ち破ることにも成功します。
通常の電池でも量子電池の場合でも、電池が空の場合には、低エネルギーの粒子のほうが高エネルギーの粒子に比べて圧倒的に多くなります。
充電されることでこの比率が変化し、電池が満タン状態に達すると低エネルギー粒子と高エネルギー粒子の比率が空の時の逆になります。
この状態は、充填の観点からは超えられない限界と考えられています。
また、この最適な充電効率(熱効率)にも、従来の量子力学的な範囲で超えられない上限が存在することが知られています。
しかし研究で示したような因果関係を打ち破る方法で充電を行うと、これらの二つの限界を同時に超越することが示されました。
(※無限の充電や無限の充電効率が得られるわけではありません)
研究者たちは量子もつれと重ね合わせの組合わせは量子電池において大きな利点となり、量子電池の実用化と開発に向けた新たな知見を提供すると述べています。