なぜ重力だけが量子として観測できないのか?

重力だけが他の基本的な力と異なり、いまだ量子論で記述することができていません。
電磁気力、弱い力、強い力の3つはすべて量子論でうまく説明されていますが、重力については完全で一貫した量子論(いわゆる「量子重力理論」)が存在せず、重力子(グラビトン)という仮説上の粒子も未発見のままです。
理論物理学者たちは重力が古典的なままの可能性から他の力と同様に量子的である可能性まで、さまざまな仮説を提案してきましたが、実験室で重力の量子的性質を検証する明確な方法が無かったために、議論は決着していません。
MIT機械工学科の博士課程に在籍するドンチョル・研究者たち(研究の筆頭著者)は、「答えを見つける鍵は、重力を感じるほど十分大きな質量を持ちながら、量子の振る舞いを示すほど静かに動く機械系を用意することにあります」と指摘します。
つまり、重力の影響を受ける“大きさ”と量子現象が現れる“繊細さ”という、一見相反する条件を同時に満たす装置が必要なのです。
研究チームが目を付けた装置が「ねじれ振り子(トーションオシレーター)」と呼ばれるものです。
これはシリコンナイトライド製の薄膜リボンを両端で固定し、鏡を載せた部分がねじれるように揺れる振り子で、18世紀に物理学者ヘンリー・キャベンディッシュが重力定数を測定した有名な実験(1798年)以来、重力研究の伝統的手法として用いられてきました。
以来、ねじれ振り子は万有引力の法則の検証や重力による微小な効果の探索に古典的な道具として活躍してきました。
この振り子は質量を載せても機械的な損失が小さく、すなわち品質係数Qが非常に高く、長時間にわたり微弱な力で揺れ続ける特性があります。
研究チームは、この古典的装置を量子の領域へと引き入れることを目指しました。
「重力物理学の伝統的手法と、原子・光物理学のレーザー冷却技術という2つの分野を組み合わせることで、古典と量子の橋渡しをしようとしています」と研究者たちは説明します。
レーザーを用いた冷却技術は1980年代から原子ガスを極低温に冷やすために確立されており、また2010年前後にはナノサイズの機械振動子の直線運動を冷却する試みも行われてきました。
しかしセンチメートル級のねじれ振り子にレーザー冷却技術を適用するのは今回が初めてであり、この新しい「ハイブリッド」実験装置こそが重力を量子論で記述すべきかどうかを検証する全く新しい実験系になると期待されます。
目に見えるセンチメートル級の振り子で重力子が量子であることが示されれば、古典物理と量子力学の理想的な融合となるでしょう。